日本経済新聞社が、「日経新聞 電子版(Web刊)」の創刊に踏み切った。「日経新聞」本紙を丸ごと電子化し、インターネット網を使ってパソコンやケータイ(携帯電話)などで配信する。創刊(サービス開始)は、この3月23日で、それ自体は既定路線に沿ったものだ。(月刊BOSS 2010年5月号掲載)

高邁な使命感に反する価格、創刊時の最大の関心事は、むしろその価格にあった。日経新聞社は、日経新聞を購読していない者が、Web刊だけを単独で購読する場合は、「月額4000円」という価格を設定した。同時に日経新聞の読者については、月額1000円で利用できるとした。

 しかし、この価格設定については、疑問視する声が多い。新聞社経営に詳しい記者が、次のように話す。

「Web刊だけ利用すれば、月額4000円になるという。紙の日経新聞は、朝・夕刊セット版で4383円、朝1回配達される統合版は3568円ですから、やはり高すぎると言わざるせない。これでは、Web刊をデジタル時代に対応する新しい商品として本気で普及させたいと考えているのかどうか、はなはだ疑問だ」

 言うまでもなく紙の新聞は、用紙代、インク・印刷代、配達等流通経費等々に大きな経費がかかっている。しかし、Web刊の方は、それが不要になる。一定の設備投資は必要だろうが、日経本紙とほぼ同水準の価格設定は、理解できないということだ。

 電子新聞を創刊するにあたり日経新聞社は、2月24日に新社屋6階の日経カンファレンスルームで記者会見を開いた。その席で、記者からも価格に関する質問が出された。これに対して会見に臨んだ喜多恒雄・日経新聞社長は、「購読料は、現在の紙の新聞販売に影響を与えない価格体系を模索した」と答えた。

 会見では販売に係わる事項の発表は、基本的に避けられていただけに、唐突で説得力に欠ける説明だった。

「日経本紙と言わずに、“現在の紙の新聞販売に”と言ったところが、かなり意味深長だと感じました。読売など一般紙への配慮が、強く働いたと聞いています。日経自身の経営戦略だけから見れば、月額3000円以下の価格になっていたと思います」(新聞関係者)

 実際に喜多社長は、2010年の年初に開いた全社部長会で、以下のように表明していた。

 「私は、電子版を単なる新しい収益源として考えているわけではありません。言論・報道を担うメディアとしての責務を果たすためにこそ創刊するのだと思っています。紙の媒体を手にとって読まなくなった若い人も、パソコンや携帯電話は使っている。そういうデジタルツールも使って、質の高い日経のコンテンツをできる限り広い読者に届けるのが、言論・報道としての使命であると考えています。それが結果として収益に貢献し、新聞界を襲う淘汰の波を跳ね返していく原動力にもなっていくのです。紙の新聞の成長力は衰えたとしても、コンテンツさえ強ければ、デジタル分野を新たな成長の源にすることができると信じています」

ペタしてね