小児血液癌患者・若年女性癌患者の妊孕性温存プロジェクト  ~東京大学 学術連携 研究会より~
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第20回ワークショップ(1月20日開催)のまとめ

お世話になっております、東大形成外科の中川です。

毎週火曜日にワークショップを開催していますが、情報公開・情報共有を図るため、こちらでまとめたものをメールで送らせていただきます。これは、小児血液癌患者・卵巣凍結に関する研究を倫理委員会に申請することを
目的とした、卵巣凍結研究や申請書の作成について深く議論することを目的としています。
より多くの方にご参加いただき、意見を頂戴したいと考えております。研究報告などもあり、わかりにくい点も多々あるかと思います。不明点・疑問点がありましたら、いつでもご連絡ください。まずは、1月20日第20回ワークショップについてお知らせします。21回以降の分は、順次メールにてお送りいたします。


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第20回小児血液癌患者・卵巣凍結に関する倫理委員会申請書類作成のためのワー
クショップ

日時:2009年1月20日 19時-20時30分
場所:東京大学医学部付属病院入院棟A 15階小会議室
参加者(敬称略):三原誠、野口修平、中川毅史(東大形成)

(はじめに)
 東大形成外科三原研究チームが進めている小児血液癌患者・卵巣凍結に関する
研究を倫理委員会に申請するにあたり、卵巣凍結研究の現状と重要性を訴える必
要がある。そのため、ワークショップ参加者へ研究内容を報告し、さらに研究を
発展させるためワークショップにおける研究成果の報告が行われた。

(ワークショップのまとめ)

 三原研究チームが2008年12月に実施した、下記実験の報告(中川)。
1.GFPマウスの脳、卵巣、腎臓のヌードマウスへの移植実験
2.近交系ラット卵巣のヌードマウスまたは自家移植実験
3.ブタ卵巣を用いたMRI Organ Freezingの磁場強度の検討
 
 血管吻合をしない卵巣移植実験を行ったが、凍結するしないに関わらず、移植
した卵巣は壊死しており、血管吻合技術の重要性が間接的にではあるが示され
た。マウスやラットではsuper-microsurgeryの施行は難しいため、今後はブタや
カニクイザルを用いて血管吻合を施した卵巣移植を行う必要がある。2月中に麻
布大学にてブタ卵巣の移植実験を行う予定である。
 また、ブタ卵巣を用いたMRI Organ Freezingの磁場強度の検討について実験結
果が発表されたが、卵巣凍結における最適磁場強度を決定することはできなかっ
た。移植実験と平行して、磁場が組織凍結にどのような影響を与えるのか、今後
も検討を進めていく。


(実験概要)
-1.GFPマウスの脳、卵巣、腎臓のヌードマウスへの移植実験について-
 蛍光を発するGFPマウスを用いて血管吻合せずにヌードマウスへ卵巣を移植
し、生着するかどうか観察した。その結果、卵巣は3日間蛍光を発したが、組織
自体は壊死した。血管吻合技術の重要性を確かめるため、今後はブタやサルなど
の大動物を用いた卵巣移植を行う。

-2.近交系ラット卵巣のヌードマウスまたは自家移植実験について-
 液体窒素またはMRI Organ Freezingにて凍結した近交系ラットの卵巣を用い
て、血管吻合せずにヌードマウスまたはラットへ卵巣を移植し、生着するかどう
か観察した。その結果、卵巣は凍結方法、移植動物種、移植後の期間に関わら
ず、壊死した。今後は、血管吻合技術の重要性を確かめるためのブタやサルなど
大動物を用いた卵巣移植と平行して、ブタ卵巣を用いたMRI Organ Freezingの詳
細な条件検討を行う。

-3.ブタ卵巣を用いたMRI Organ Freezingの磁場強度の検討-
 MRI Organ Freezingでは磁場を使って組織や臓器を凍結している。本実験で
は、磁場の強度を変えてブタの卵巣を凍結し、卵巣凍結における最適磁場強度の
検討を行った。その結果、凍結した組織を顕微鏡観察にて解析したが、どの磁場
強度でも組織に変化は見られなかった。今後は、凍結スピードや、組織のサイズ
を考慮に入れた条件検討を行う。


(詳細研究報告)
-1.GFPマウスの脳、卵巣、腎臓のヌードマウスへの移植実験について-

(目的)
本研究は、形成外科医の血管吻合技術(super-microsurgery)が重要な要素となっ
ている。
血管吻合をせずにヌードマウスへ卵巣を移植し、生着するかどうか観察する。
(方法)
紫外線照射によって全身の細胞が緑色の蛍光を発するGFPマウスを用いて、ヌー
ドマウスへ移植したGFPマウスの臓器が蛍光を発するか否かで細胞の生死を判定
した。2-3 mm角程度に細断した脳、卵巣、腎臓、凍結解凍後の腎臓(液体窒素に
よって凍結し、流水にて解凍した)を、切開したヌードマウスの背中に移植し
た。1、2、3日後にヌードマウスの背中を再切開し、トランスイルミネーター
で紫外線照射した。
(結果)
脳、腎臓:2日目まで蛍光を発した。
卵巣:3日目まで蛍光を発した。
凍結解凍後腎臓:1日後にはすでに蛍光を発しなかった。
(考察)
凍結解凍後腎臓を用いたのは、細胞がすべて死んだ状態でGFPがどの程度蛍光を
発し続けるのか調べるためである。今回の実験では、1日後には死細胞中のGFP
タンパク質が光らないことを確かめた。
卵巣は脳、腎臓よりも蛍光を長く発しており、生着はしなかったものの臓器ごと
に細胞の生き残りやすさが異なることがわかった。卵巣は比較的虚血状態に強い
可能性がある。
これまでは、卵巣を血管吻合せずにヌードマウスに移植しても生着すると報告さ
れていたが、血管吻合なしに生着することが難しいことがわかった。
今後は、super-microsurgeryによる血管吻合を実施した卵巣移植を行う必要があ
る。マウスやラットでは血管が細すぎるため、ウサギやブタ、カニクイザルを用
いて実施する予定である。ただし、ウサギは体外受精の技術がないため、ブタや
カニクイザルを用いなければならないが、費用が高いため実施が難しい。費用対
効果を考えて実験を進める必要がある。

-2.近交系ラット卵巣のヌードマウスまたは自家移植実験について-
(目的)
本研究は、形成外科医の血管吻合技術(super-microsurgery)が重要な要素となっ
ている。
血管吻合をせずにラットまたはヌードマウスへ凍結したラット卵巣を移植し、生
着するかどうか観察する。
(方法)
近交系ラット卵巣を、液体窒素またはMRI Organ Freezing(磁場をかけながら凍
結)で凍結した。1ヶ月間-30℃で保管後、卵巣を摘出したラットまたはヌー
ドマウスの背中へ卵巣を移植した。移植後、1週間または2週間後に移植した卵
巣を摘出し、目視またはHE染色にて組織の様子を観察した。

<凍結方法> 1.液体窒素(-196℃)
2.MRI Organ Freezing(-30℃)
<凍結保護剤> 1.生理食塩水
2.フロリナート(神奈川大学 関邦博教授が心臓保存に用いていた溶液)
<移植方法> 凍結した近交系ラットF334卵巣を流水で解凍し、ラットへは丸ご
と、ヌードマウスへは4分割にしたものを、背中を切開してその中へ移植した。
3-0の糸で縫合し、1週間または2週間後に卵巣を摘出した。

<解析方法> 目視またはHE染色(パラフィン切片)した標本の顕微鏡によって組
織観察を行った。

(結果)
移植した卵巣は凍結方法、移植動物種、移植後の期間に関わらず、壊死した。卵
巣と同時に動脈や子宮も一部移植されており、顕微鏡観察したが、どれも壊死し
ていた。

(考察)
これまでは、卵巣を血管吻合せずにヌードマウスに移植しても生着すると報告さ
れていたが、本実験と平行して実施していた-1.GFPマウスの脳、卵巣、腎臓の
ヌードマウスへの移植実験について-の結果によると、血管吻合なしに生着する
ことが難しいことがわかった。本実験では凍結後のラット卵巣を血管吻合なしに
移植したが、GFPマウスを用いた実験と同様、凍結方法、移植動物種、移植後の
期間に関わらず、卵巣は壊死していた。

今後の研究の進め方として、以下を平行しておこなう。
1.super-microsurgeryによる血管吻合を実施した卵巣移植(凍結なし)。マウ
スやラットでは血管が細すぎるため、ウサギやブタ、カニクイザルを用いて実施
する予定である。ただし、ウサギは体外受精の技術がないため、ブタやカニクイ
ザルを用いなければならないが、費用が高いため実施が難しい。費用対効果を考
えて実験を進める必要がある。

2.ブタ卵巣凍結実験(移植なし)。マウスやラットを用いた卵巣移植は困難な
ため、大動物を用いた卵巣移植を想定し、ブタ卵巣の凍結条件の検討を行う。東
京芝浦臓器株式会社からブタ卵巣を購入し、凍結に適した温度、凍結スピード、
磁場強度、凍結保護剤、卵巣のサイズ、解凍方法を検討する。
今はMRI Organ Freezingの条件(温度、凍結スピード、磁場強度)の条件を大き
く変更できないので、凍結保護剤、卵巣のサイズ、解凍方法の検討を優先して行
う。MRI Organ Freezingの条件検討については、現在工学部と共同開発している
小型化MRI Organ Freezing試作機の完成を待つ(2-3ヶ月後)。

-3.ブタ卵巣を用いたMRI Organ Freezingの磁場強度の検討-
(目的)
カニクイザルの卵巣をMRI Organ Freezingによって凍結し、解凍後の卵巣を自家
移植(卵巣を摘出したカニクイザルに移植)したところ、女性ホルモンや生理の
再開が見られたという研究はすでに学会にて報告している。しかし、これまでは
MRI Organ Freezingで使用されている磁場強度の詳細な検討は行われていなかっ
たため、ブタ卵巣を用いて最適磁場強度を検討した。
(方法)
ブタから摘出されてから5-6時間後の卵巣(東京芝浦臓器株式会社)を丸ごと
MRI Organ Freezingによって凍結し、-80℃で保存した。6ヶ月後、流水で解
凍し、10%ホルマリン固定後パラフィン切片を作製およびHE染色を実施し、組
織の状態を顕微鏡観察によって解析した。
検討した磁場強度は0、33、66、100%。それぞれ、別の日に、別のブタ
卵巣を用いた。
(結果)
いずれの磁場強度でも卵巣組織への影響は見られなかった。主に卵胞の状態を観
察したが、どれも保存されているように見えた。
(考察)
今回は組織科学研究所に写真撮影を依頼し、それを元にワークショップにて発表
したが、磁場強度を変えて凍結したそれぞれの組織に違いは見られなかった。磁
場0%でも卵胞の破壊は見られなかったため、磁場を用いない単純なプログラムフ
リージングのみでも組織を破壊しない凍結方法が可能となるかもしれない。

今後は、下記を実施する予定である。
1.病理学者(組織研顧問の榎本先生、大西先生)に詳細な解析を行ってもらう
2.凍結スピードや凍結保護剤、組織サイズとの相互作用を調べる