目を覚ますと見慣れた光景が広がっていた。そこは天国でも地獄でもなく、自室だった。
『あれっ?僕、死んだはずじゃ...。』
驚き起き上がると、知らない声が聞こえた。
「気が付きましたか?」
声の方向を向くと、知らない人が座っていた。
見た感じ同年代くらいの少年だった。
驚いた幸太は咄嗟に尋ねる。
「だ、誰ですか?!」
「私はエマと申します。それより、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫....」
何が起きたのか混乱する幸太は人見知りする余裕もなく尋ねる。
「あの…なにがなんだかわからないんですけど?」
「そ、そうですよね。」
「エマ…さん?は何でここにいるんですか?ここって僕の部屋ですよね?それに僕生きて」
質問攻めの幸太の口にそっと人差し指を立てるエマ。
「ここはあなたの部屋です。何があって自殺したのか知りませんが、自殺はいけません。もう少しで本当に死ぬところでしたよ。」
「エマさんが助けてくれたのですか?」
「はい。」
「...。」
しばらく黙り込む幸太だが、次の瞬間、糸が切れたように取り乱す。
「なんで…なんで、助けたんですか?!もう少しで死ねたのに、こんなくだらない人生を終えられたのに!!なんで?!!」
「自殺なんて…」
幸太の言葉を遮るように一瞬、大声を出すエマは冷静かつ真剣にこう続けた。
「自殺なんていいことがありません。何があって自殺を決意したのか分かりませんが、何があっても死んだらダメなんです。死んだらそれですべて終わりなんです。その先に待っている楽しいことすら体験できないんですよ!!」
そう諭すエマに幸太が反論する。
「楽しいことがないから死ぬんだよ!!僕みたいな…僕みたいな生きている価値のない人間は死ぬべきなんだよぉぉぉぉ!!!!」
パンッ!!
大声で泣きながら叫ぶ幸太に激痛が走る。
エマが幸太に思いっきりビンタをしたからだ。
「いい加減にしてください。死んだらすべて終わり。やり直すこともできないんですよ!」
真剣な眼差しでそう言ったエマは、幸太の手を掴み微笑みかけて諭す。
「理不尽で嫌なことがたくさんあり、自分の思い通りにいかない苦しくも残酷な世の中ですが、こんな世の中でも楽しいことはあるんです。幸せを感じることもあるんですよ。」
エマの微笑みとビンタの愛情に心が温かくなった幸太は落ち着きを取り戻し、涙を流しながら尋ねる。
「こんな僕でも幸せを感じられる?」
「はい。不安なら私が側にいます。たくさん幸せを感じ不幸とさよならしましょう。」
「こんな僕でもやり直せるの?」
「もちろんです。私と共に開運人生を送りましょう。」
その温かい言葉に甘えた幸太はエマに抱きつきしばらく泣いたのだった。
「すいません。もう大丈夫です。助けてくれてありがとうございます。」
「落ち着いたようでよかった。」
笑顔のエマに泣き止んだ幸太が疑問をぶつける。
「ところで、どうやって助けてくれたのですか?それにあなたは一体何者ですか?」
「えっ、あ、えーっと…私は...その....あ、お隣さんです。」
真っ当なその質問にふいをつかれた様に答えるエマ。
「えっ?!」
「あのぉ、ベランダで月をぉ、見てたらぁ、あなたの姿が見えてぇ、飛び降りる直前に手を掴んで助けたんですけどぉ、すでに気を失っていてぇ...。」
と、さっきとは違う苦笑いに近い笑顔で説明するエマ。
「でも、お隣って…」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
幸太の言葉を遮る大声を出すエマ。
「そろそろ失礼します。明日、大事な用事があるからもう寝ないとなぁ~」
そう言って、そそくさと立ち去ったエマ
「お隣って老夫婦だったような…。ま、いっか。寝よ。」
と言って、布団に入って眠る幸太。
『あの綺麗なものは何だったんだろう』
落ちているときに見た綺麗な何かを思い出し疑問に思いながらも幸太は眠った。
この体験、出会いが幸太の開運人生の始まりとも知らずに―――。