ノリックこと阿部典史は、19歳の若さでバイクレースの世界最高峰WGPに参戦した、グランプリライダーです。

1994年、彼のWGPデビューは、まさに鮮烈そのものでした。
日本GPからの参戦(ワイルドカード)にもかかわらず、SUZUKIの英雄ケビン・シュワンツや、後に5年連続の世界チャンピオンに輝くミック・ドゥーハンらと、熾烈なトップ争いを繰り広げます。
そして、日本中のバイクファンが固唾を飲んで見守るなか、残り3周となった1コーナーの飛び込みで、ノリックはフロントからスリップアウトし、エスケープゾーンへと飲み込まれていったのでした。

翌年からノリックはWGPにフル参戦し、2000年までに3勝を挙げます。
フロントタイヤに大きく加重をかけたまま旋回する独特のライディングスタイルは、ドゥーハンをして
『最も才能に恵まれているが、最もリスキー』
と言わしめました。
バイクに乗っている人なら、この走法がいかにリスキーなモノか、わかってもらえるでしょう。
予選では中盤に沈むも、得意のロケットスタートで大きくジャンプアップし、そのままアグレッシブにレースを展開する……。
ノリックの走りは、日本人のみならず、世界中のレースファンを魅了しました。

2005年からは、WSB(スーパーバイク世界選手権)に活躍の場を移します。
さらに2007年、全日本ロードレース選手権に参戦し、6戦を消化した時点で総合3位。
次戦の鈴鹿に意気込みを見せていました。

そして、阿部典史は亡くなりました。
バイク事故で、亡くなりました。

時速300kmの世界で戦ってきたグランプリレーサーが、世界最高峰のテクニックを持つ現役グランプリレーサーが、一般道でトラックを避けきれずに、亡くなりました。
おそらく、世界中のレースファンが言葉を失ったことでしょう。
僕も『嘘だろ…』という言葉しか、出てきませんでした。


バイクに乗っていると、バイクに乗っていない人から、よくこういう風に言われます。
『バイクって危ないだろ』
そう言われるたびに、
『大丈夫だって』
と笑ってかわしていました。
しかし、実際、バイクは危険な乗り物です。
クルマとは違い、事故ったら100%道路に投げ出されます。
クルマなら『ブツけちゃったよ~』で済む話が、バイクなら大怪我になるのです。
だからバイク乗りは、自分で自分の身を守らなくてはなりません。
暑くても上着を着てグローブをはめ、正しく機能するヘルメットを被るのは、ライダーとして当たり前の行為です。
安全運転を心がけ、周囲の危なそうなクルマを選別できるようになって初めて、バイク乗りを名乗ることができるのです。

バイクは最高にイカした乗り物です。
ですが、バイクは危険な乗り物です。
バイク乗りの皆さん、くれぐれも無事故でバイクライフを楽しみましょう。

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今日の映画:Faster マーク・ニール監督
      マッコイのスライド走法は、本当に理解できません。