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nonsense

馬鹿馬鹿しいな


―――――死ぬな、男鹿。
男鹿、死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな。
死ぬなよ死んでくれるな死んだりしたら許さない。お前が死んだら俺は、俺は誰と笑えば良い?誰と泣けば良い?俺は誰と、誰と、生きていけば良い?

男鹿。なあ、男鹿。何で返事しないんだよ男鹿。一生俺の傍にいるって約束しただろ?俺を守ってくれるんだろ?俺を幸せにしてくれるんだろ?だったら何で目を覚まさないんだよ、早く起きろよ、なあ。とっとと目ぇ覚まして、悪戯に微笑んで、抱きしめて、古市って呼んでくれよ。俺が死ぬとでも思ったのかって、笑ってくれよ。そうして、でっかい、俺を守ってくれるその手で、この涙を拭ってくれよ。俺の好きな色気のある声で、愛してるって囁いてくれよ。いつもみたいに、優しくキスしてくれよ。俺の愛しい男鹿。男鹿。神様頼む、男鹿を助けて。神様じゃなくても良い、医者でも魔王でも、男鹿を助けてくれるなら何でも良い。男鹿が目を覚ましてくれるなら何でもする。だから。でも。男鹿を殺したりしたら許さない。男鹿がいない世界なんて、俺は認めない。


その日はいつもと変わらない、平凡な一日になるはずだった。男鹿を家まで迎えに行って、一緒に学校へ向かう。いつもと同じように、黒板に書かれた白い自習の文字。教室の真ん中あたりで今日も姫川先輩と神崎先輩は喧嘩してるし、烈怒帝瑠のみなさんは相も変わらず麗しい。





「古市くん、顔色悪いわよ?しばらく私が付いてるから、ちょっと休んだ方が…」
「大丈夫です。男鹿の傍にいたいんです。」
「でも…、」
「すいません。」
今にも倒れそうよ、と続けようとしたその言葉は、か細い謝罪の声によって遮られた。
「すいません、今、男鹿と先輩を二人きりにする余裕ないんです。男鹿の目が覚めたとき、傍にいるのは俺が良いんです。この場所は、誰にも譲れないんです。我儘ですいません。」
彼は、揺るがない瞳で男鹿を見つめながらそう言った。見抜かれたと思った。この状況でなら、自然に男鹿と二人きりになれる。あわよくば、目覚めたときに傍にいられたら。そんな、ずるい考え。彼を心配して声を掛けたことに嘘はない。本当に、このままだと彼まで倒れてしまいそうで。ただ、恋心とは罪深いもので、こんなときでもちらりと欲が顔を出す。恥ずかしい、馬鹿だ、私は。我儘なのは彼じゃなくて、身勝手な想いを親切に隠そうとした、私なのに。


ずっと男鹿の傍に着いて離れないアイツは、見てられなかった。目は散々泣きじゃくったおかげで腫れている上に、まともに睡眠をとれていないのか濃い隈が浮かび上がっていた。食事も人に言われないと食べようとしないし、その量もごく僅かだ。美しかった銀髪はボサボサだし、みるみる痩せこけていくのが見てとれる。医者や両親がいくら言っても男鹿から離れようとしない、アイツの方が病人のようだった。あんなに荒れたアイツを見たのは初めてだった。アイツは、極度の女好きで、変態で、アホで、たかが腐れ縁なんぞで男鹿とつるめる変な奴。弱っちいくせに変な所で度胸があって、黙ってりゃあ綺麗なのに口を開けば女のことばかり。そんな残念で鬱陶しい、喧嘩もできねえただの後輩は、どこか憎めない愛嬌というか魅力があった。少なくとも俺達、聖石矢魔に間借りしていたメンバーは、何だかんだでこいつを好いている。じゃなきゃとっくにシメてんだろ。つまり何だ、こいつが笑ってないと、嫌なんだ。





「…っんの、馬鹿!大馬鹿!ばかばかばかばか!!お前なんか、男鹿じゃなくて馬鹿で十分だ!馬鹿辰巳!!」
「んだと古市、俺はなぁ…」
「うっさい!喋んなばか!人がっ、どんだけ、心配した、と………っ、も、ばか」
「ふるい…」
「俺の傍にいて、俺を守ってくれるんじゃなかったのかよ!俺のこと幸せにするっつったじゃん!っざけんなよ、約束守んねえお前なんか……お前、なんかっ…」
「……」
「無茶すんなよ、ばか。心配かけてんじゃねえ、ばか。……死ぬな、ばか。」
「俺があんくらいで死ぬかよ。」
「お前の強さは誰よりも知ってるし誰よりも信用してるっつの。でも、……誰よりもお前のこと、心配してんだよ。」
「…わりぃ。」