☆ 東京バナナ
内容については特に目新しい要素は無く、
昔、どこかで見た様な展開で、
いかにもセオリー通りの構成という印象だが、
この作者は基本的にシナリオを書くのが
上手いと思った。
ただし、どうしてもリアリティが
感じられない部分が目立つ。
主人公は喘息持ちで内向的な児童
という位置づけで始まるが、
この壮大な話の中で、その枷が
殆ど有効活用されていない。
仮に喘息と全速をかけたかっただけ
というなら、あまりに安易。
何より、11歳児童が何の準備も無く
東京から大阪を自転車で、という件は
やはり非現実的すぎる。
更に、ここに登場するトラック運転手
の存在に至っては、何かとコンプライアンスが
問われる中、よくもこれがまかり通ったものだ、
と審査基準の方に疑問を感じた。
また、主人公の母親の思考も解せない。
P51にて、11歳の主人公が無断で一晩
家を空けているのに、この母親は
朝帰りした息子の外泊を見事にスルーする。
常識的に考えれば、友達の親の訃報など
忘れる程に心配し、無事の帰宅を喜ぶか、
無断外泊を感情的に叱るのが
常道ではないだろうか。
こういう親もいるかも知れない、
と言われてしまえばそれまでだが、
私は、この部分は全く違うと強く思った。
そもそも、公太と将の思考、会話、行動が
小学5年生にしてはませ過ぎていると思う。
設定が中学生だったなら頷けるが、
11歳は、親か相応の大人の庇護が無ければ
独断で社会的行為を行うのは
まだ無理ではないだろうか。
文字通りに受け取ると、千葉~東京間ですら、
11歳児が容易く移動できる行動範囲では
ないのに、自転車であっさり行き来させていて、
設定が軽薄だと感じざるを得ない。
せめて、市川と江戸川、とか、松戸と葛飾など
市区単位の位置指定が欲しかった。
小学生漫才大会にしても、正当な主催者が
存在する舞台なら、たとえ飛び入り参加であろうと
保護者の存在は欠かせないと思うのだが。
この話、親が関わらなさすぎである。
将の方は家庭環境が書かれているので
それでもいいが、公太の方は庶民的な
サラリーマン家庭の様だし、親の存在を
もっとしっかり描くべきと思う。
ちなみに、漫才のネタの部分は
驚くほど良く描けていた。
思うに、素人作家はこういう場面で
ついダラダラと不要な部分まで
書いてしまうきらいがあるが、
正味3ページでまとめられた手際が
素晴らしかった。
そこから繋がるP50の「お笑いとは……?」の
問いに対する漫才師の回答も良かった。
受賞のポイントもその辺りにある気がする。
ただ、こんな秀逸なセリフを言わせるのなら
吉井を単なる脇役ではなく、序盤から
登場させて存在感を高めておけば
セリフにプレミアが付いて、更に効果的
だったと思う。
この作者は、個々のエピソードの
発想は冴えている。
知らない大都会での不安を「迷子」によって
端的に表したり、タイトルでもある
バナナの使い方なども巧みに配置している。
ただ、それらのエピソードを繋ぐ
時間、空間の説明が不親切なので
読み手に話の流れを把握させる余裕が
感じられなかった。
引越しを告げてから引越し当日に
至るまでとか、漫才大会の前夜と
当日の展開が性急に感じられて
ドラマ性を欠いているように見えてしまう。
これは、作法上で柱とト書きに
日替り、翌日、引越し当日、等の
時間指定を書くことでだいぶ解消される。
折角のエピソードを活かす為にも
それらの工夫は是非、欲しい。
その辺りを改善し、人物や背景にも
細やかな配慮が出来る様になれば
この作者は化ける気がする。
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☆ ふぁってん!
先ず、初めに触れておきたいのはP11の罫線の囲い。
これって、作法的にも応募要項上もOKなの……?
注意事項の
「文字サイズ・フォントなど書式(スタイル)の変更」
「特殊文字(☆や♪など)の使用」
には該当しないみたいですねぇ。
なんか釈然としないんですが……。
静かな始まりから淡々と綴られ、
ホームドラマ? サスペンス?
それともホラー?
と、読み手の期待感を煽るが、
本文の半分ほど読んでも、
相互理解が欠落した倦怠期夫婦の
生活を語るばかりで
事件らしい事件が何も起こらない。
話が動き出すのはP45辺りからで
前置きが長すぎた。
その、妻が募らせてきた鬱憤をぶちまける
シーンは、読み手が期待した程は荒れず、
妻が一方的な癇癪を見せるだけで終わる。
このシーンでは、折角、貯金箱を割ったのに、
夫は中のお宝(メモ)に全く触れていない。
P9から早々に登場し、ずっとヒロインの
心の支えとなっていたキーアイテムで
ようやく役割が与えられたのに、
この程度の扱いではもったいなさすぎる。
ここは、旦那にしっかりとメモを読ませて
妻の「嵐」の動因を夫にも共有させ、
それに対する夫のリアクションを
明確に描くべきだった。
大体、終始、夫の言い分が語られないので、
夫婦の葛藤としては片手落ちが否めない。
主人公である妻の主観で進行するから
一方的に夫を悪者としているのは理解できるが、
夫の設定が希薄なので、誰が見ても
「完全な悪者」という位置付けまで昇華できていない。
行き過ぎた亭主関白なのか、或いは
マザコンなのか、モラハラなのか、発達障害なのか、
確かにこの夫は成人男性として何らかの
精神的な問題を抱えているとは思えるが、
現状では特に深刻な状態には見えず、
これなら専門医のカウンセリング等で
改善するレベルではないか、と思えてしまう。
むしろ、夫に風呂の残り湯を飲ませたり、
自転車に危険な細工をするなど、
「姑息な仕返し」では済まない実害を及ぼしている
妻の精神状態の方が危機的問題だ。
だから、読み手はいま一つ妻に共感できず
読み終えた時に同情もできない。
妻の苦痛からの解放という爽快感も得られない。
また、オープニングの思わせぶりな金魚の存在も
特に隠喩を表わしているとは思えず、存在が中途半端。
そのオープニングの病院シーンの老婆と幼児、
P22で登場する腹違いの兄弟2人も、
役回りが不鮮明で、言ってしまえば
特に必要性が感じられなかった。
この内容ならば、主人公と旦那とお隣さんの
3人のみの話にした方が良かった気がする。
そして、タイトル。
何かの意味があったのだろうが、
本文から読み取れず残念。
ただ、シナリオとして一気に読ませる
文章力はある。この先どうなるのか、
思わせぶりな演出も巧い。
その意味で、奏という隣人の存在は良かった。
この人物、P44にて「近所付き合いはしない」
と断言しているが、何故、そうなったのか
エピソードを書き加えてくれていたら、
更に良かったかもしれない。
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☆ 男は背中を語る
何か深いテーマ性がある様で、
実は空っぽな話。
会話劇と言えば会話劇だが、
哲学的な奥ゆかしさがある訳でもなく、
単に刹那的なセリフの連投に過ぎず、
読み終えた時、後に何も残らない。
一見、痛快エロストーリーの様な印象だが、
劇中に露骨な要素は無い。それでも、
主要人物達に変態を自認させる事で
意図して特殊な雰囲気を醸し出していたのは
テクニカルだった、という事にしておく。
57頁を30分かからずに一気に読ませるので、
その意味ではこの作者は筆力があると思われる。
この様な作品が堂々と選ばれるのも
ヤンシナの魅力、と言ったところ
なのかもしれない。
劇中に登場する男は変な奴ばかり。
これでこのタイトルにはどういう意味があるのか、
と思ったが、要するに、
「男は(女の)背中を語る」
という事だったのだろうと気づき、
妙に腑に落ちた。
P55では、
眞野「綺麗に巻かれた髪」
眞野「整った格好」
眞野「高いヒール」
眞野「なのに」
眞野「こんな所に」
眞野「それはきっと」
眞野「きっとそれは」
眞野「何か」
眞野「事情が」
眞野「あるや、なしや」
と、同一人物のセリフを短くブツ切りにして
1行1行連ねている。
斬新な手法と言えなくもないが、
実は単なる行数の無駄遣いに過ぎない。
眞野「綺麗に巻かれた髪、整った格好、高い
ヒール、なのに、こんな所に。それはきっ
と、きっとそれは、何か、事情が、あるや、
なしや」
と、本来4行で済むセリフだ。
この辺りのギミックには作者のあざとさを感じる。
あざといといえば、
登場するみなみと言う女性。
同名の某元女子アナタレントの
イメージを纏わせている様で、
その設定にも作者のあざとさが……。
眞野と前園・塩釜が、急激に打ち解けているのが
引っかかった。これは、ト書きにも柱にも
時間経過の表記が無いのがいけない。
他の受賞作もそうだったが、
柱に(日替り)や(○日後)、または
ト書きにテロップ指定も含めた時間経過の設定を
記載した方が絶対に良い。
この話、どこを切り取っても現実味に欠けている。
……のだが、何故か、漠然と、不思議な可能性を
秘めている気が……しないでもない。
珍妙な作品でした。