1967年のある日
一人の少女が恋をした
ふと街角ですれ違っただけの行きずりの恋だった
当時 流行っていたのはグループ・サウンズ
その中でも彼女はタイガースがお気に入りだった
ファンの間で人気だったのはジュリーだったが
彼女の憧れはサリーだった
行きずりの彼は
長身で優しい顔立ち
サリーに似ていた
魅入られたように彼女は彼の後をつけた
彼は一軒の古本屋に入っていった
彼女は気づかれないように裏の本棚からそっと彼を伺った
彼は一冊の本を熱心に読むと丁寧に棚に返して店を出ていった
どんな本を読んでいたのかしら
彼女は彼が見ていた棚を探し一冊の本を手に取る
「地獄の季節研究」
ペラペラとめくると
一枚の栞があった
そこには
「YT」
と書かれいた
彼は学生でお金がないから読みたい本も買えずに立ち読みしてるのだな…
少女はふと閃き
持っていた紙を短冊に切り書いた
「難しい本ですねKK」
ただ話かけてみたかっただけの事だった
本の中の彼に
翌日 彼女は古本屋に行き心ときめかせてページをめくった
栞には
「貴方は誰ですか」
少女は飛び上がりたいような気持ちを抑えて
用意した短冊に書き込んだ
「貴方を尊敬する者です」
「うれしいです」
こうして淡い恋が始まった
「あなたもランボーが好きですか」
「ええ わたしの心の支えです」
「僕もランボーに救いを求めています。あなたとは同士ですね」
彼女が有頂天になった時に衝撃的な出来事が起こった
スナックで偶然あの彼と出くわしたのだ
しかも彼は彼女を連れて
激しく心乱される中で
彼が「YT」ではない事に気づく
混乱の中で彼女は古本屋に行き
短冊に書いた
「あなたに会いたい」
そこで彼女は「YT」とは本の著者である
「帯刀燿一郎」である事に気づく
彼女は古本屋の主人に
「私この人に会いたいんです。この人に会わせて下さい」
主人は困った顔をした
「それは無理な相談だ。彼は有能な学者だったがもう20年前に死んでしまったんだよ。太平洋戦争のね特攻隊員だったんだ。この本は彼の残したたった一冊の著書なんだ」
絶望する彼女が本を開くと
長い手紙がそこにあった
「私も貴女にお会いしたい。でも しばらくそれは叶わない願いになりました。傷の癒えた私は明日再び戦場に赴かねばなりません。今まで私にとってこの戦争は無意味なものでした。でもいまは貴女を守るという目的ができました。私は必ず戻ってきます。その時を待っていて下さい。貴女に幸多からん事を…追伸 庭に金木犀が咲きました。この香りがあなたに届きますように」
本の中で生まれ
本の中で別れた恋…
一冊の本が
タイムマシンのように二人をとりもつ物語
志し半ばに
戦地にいかねばならない無念が
本に宿ったのか
そんな思いを
偶然の勘違いから救いあげた少女との切ない恋
「栞の恋」
という短編
「世にも奇妙な物語スペシャル」
で観て久しぶりに
心に響いた物語だった。