平塚駅前の喫茶店で、今、
何故か人待ち顔をしている。

BGMに「ミラボー橋」が流れ、
ふっと3年前の冬に戻った。


パリで、我が手の師であるコクトーの
大回顧展がある事を知り、
その足で渡航費を作る為に何枚か絵を
売りに行き速攻でエアーチケットを買い
安宿を押さえ、カメラをカバンに積め
「熱いカフェオーレを下さい」は
フランス語でなんちゅーか友人に聞き
一服の間もなく、一路コクトーの居た
市/まちに向かった。


初パリである。


憧れ慕う人々の居た市/まちである。


鼻血もんである。


ミロにサモトラケのニケも居る。


ランボーに
アポリネールに
アジェに
マティスに
ゴッホに
アブサンに
水銀現像に
我が師ジャン・コクトーが
生きた地である。

興奮するなは不可能である。

堪らない緊張と感動で溢れ
空港に降りて直ぐにカメラを
取り出し白い息に引き締まり
ながらシャッターを切っていた。


「これからこの小さな覗き穴から
 見た光景は自分だけのパリだ。」


そう自分だけのパリ。

コクトーが居た市(まち)なのだ。


珍しく記憶しているほぼ全ての
撮ったカットが、カチャカチヤと
頭の中を過ぎっていった。



あの冬の凍てつくような寒さと共に。


時間が止まった。


待ち人からの電話が鳴り
現実に戻った時
この冬はあの写真たちと
自分だけのパリに再会する事を
決めていた。


冬は暗室である。


Pari.である。