裏表紙に「2013年最大の衝撃作」という文面が書いてあって、思わず買ってしまった。実際、読んでみると、それは踊るようなうたい文句だったのだが・・・。
おまけに、表表紙には、
「通院歴もないのに突然、精神科病院に拉致・監禁」
「医師に勧められた睡眠薬で極度の薬物依存に」
「自殺願望に悩む患者に首つり自殺の方法を教える」
「大量の薬物投与と電気ショックで26歳男性の言葉を失わせる」
ここまで書くと、出版社系週刊誌の中づり広告を連想させるのだが、本文はいたってベーシックだ。
著者は読売新聞東京本社 医療部・佐藤光展記者。
彼とはこれからいろいろ情報交換をしたいと思っているので、自著を送った。
第1章の「誤診」はよくある話ではあるのだが、精神科は「3分診療」とよく言われるように、医師の経験に基づくカンをたよりに、診断名をくだす危険性について述べられている。
次章からが、興味深く、著者の本領発揮となっていく。
まず「強制入院」。精神保健法(1987年施行)により、「任意入院」が設けられたのが、患者家族の負担を減らす意味合いもあって「医療保護入院」などの強制入院のまん延状態ぶりを赤裸々に綴っていく。
また、電気ショック療法などが今だに日常茶飯事に行われている安易な治療にも警鐘を鳴らしている。
著者がこの書で最も強く主張しているのが、「過剰投薬」の実態だ。よく多剤大量投薬(3種類以上の向精神薬を多剤投薬と呼ぶ)が叫ばれているが、私が会員になっているとある精神障害者家族会の今月の会報でも取り上げられていた(厚生労働省の受け売りで情けなかったが)。
多くの精神科医は薬を処方することが仕事と思っていることが多く、ある大学病院では「致死量」ととられてもおかしくないほどの抗精神病薬を処方し、ある若者を死にいたらしめた。
また重い副作用のある恐れのある処方量の6倍もある薬を処方し続けた精神科医も〝告発〟している。これらの過剰処方に対して、薬剤師も疑問を投げかけているのだが、日本の精神科医は異常とも思えるほどプライドが高く、薬剤師からの問題提起をことごとく無視し続ける。
アルコールやたばこと同様に、睡眠薬や精神科の処方薬の多くが依存性がある。ということは、それらを服用する患者はその病院・クリニックに通院し続けなければならないというジレンマに陥るのだ。
まあ、ざっと書いてきたが、現代日本の精神医療の問題の「氷山の一角」を示す良書だと素直に思った。この問題に踏み込むには綿密な取材が必要不可欠だし、そう言う意味では、私にとっては良い「教科書」になった。
精神科に通院していてもしていなくても、メンタルヘルスという言葉が浸透してきた昨今、一読の価値はある本であろう。