『万事の地』へと続く霧が立ち込める坂道を半ば登ったあたり、黒衣に身を包み、狐の仮面を被った”ソイツ”が居た。俺は自分の片手剣をしかりと握り、”ソイツ”を切りにかかる。
「無駄ダ、如何ナル攻撃モ俺ニハ効カナイ」
”ソイツ”はモザイクが掛かったような、何とも言いつかない声で喋る。俺は”ソイツ”の腹に剣を奮う。
「言ッタロ?」
確かに”ソイツ”を切ったはず、剣を振り抜いたはず。しかし、何の手傷も受けていない。”ソイツ”の言った通り、如何なる攻撃も効かないとでも言うのか?
俺は地面を蹴って後ろに後退し、顔を上げ”ソイツ”を睨む。その時、
――空より、示寂桜の鐘が響く
「鐘ノ音ガ聴コエテイルヨウダナ・・・・コノ鐘ノ意味スルコト・・・・知ッテイルダロ?」
この鐘はある類に入ってしまった人にしか聴こえない。俺の後ろで固唾を呑んでいる岡田は当然聴こえていない。いや、聴こえていてはならない。
「約束したんだ。小野とも・・・・安部とも・・・・だからッ」
「オ前ニハ止メル事ナド出来ヤシナイサ・・・・我々ノ計画モ、全テヲ・・・・ダカラコウナル運命ナノサ・・・・」
俺と岡田の間に影が現れる。
「デブ!!後ろ!!」
「ぐっ・・・!」
身体が熱くなる。下を見ると黒々とした刃が、赤黒い血と共に腹から出ている。蒼灰色の霧の奥に佇む狐のお面をした”ソイツ”。お前は今、その仮面の奥でどんな顔をしているのか。何を思っているのか。なぜ俺の全てを知っているのか。
お前は一体何者なんだ。
目が霞む。俺の後ろに現れた影は何時の間にかに消え、代わりに岡田が俺に駆け寄っていた。俺を抱きかかえ、叫んでいる。
「吉川ッ!!やっ・・・・駄目・・・・・そんな・・・・」
狐のお面の”ソイツ”は言った。
「分カッタカ女。口先ダケニ成リ下ガッタ男ハ、スグニ死ノ運命ヲ辿ル・・・」
意識が薄れ行く、まるで死神が魂を奪い取るように。
そしてデブは呼吸をしなくなり、心拍が止まった。岡田は目に涙を浮かべデブを抱きしめる。
狐の仮面をした”ソイツ”の立っている傍の地面から、さっきの影が姿を出した。
「ねぇ、そろそろ時間だヨ」
――ついに”アレ”が獄を破った
「我々ノ、計画ガ最終段階ニ入ッタ。完全体ニ成ル日ガ・・・・」
交わることが無いと思われていた二つの世界は
終末を迎えようとしていた。
