《元日 巳の刻・鬼灯堂》
「わあ、お母ちゃん、すごい、おせちやあ」
今日はパートも休みとあって加代は早朝から起きて、頑張っていた。三段重ねのおせちの箱はぎっしりである。
(ここで一発、瑠璃さんとの差を開いておかねば)
お重を詰め終わると、加代はいそいそと着物を出して、着付けを始めた。
(ホステス時代に着付け習っといてよかったわ)
いつも着物姿の瑠璃に対抗するには着物だと、昨日レンタルしてきた着物であった。
「お母ちゃん、きれい」
祐太が喜んではしゃぎ始めた。自己流ではあるが髪を結いあげ、櫛を刺すと鏡に映る自分にほれぼれした。
「お母ちゃんもまだまだいけるなあ」
支度が済むと、重箱を風呂敷に包んで、いそいそと出かけた。
鬼灯堂に着くと、既に瑠璃が来ていた。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
瑠璃の他に、もう一人、輝夜によく似た面差しの青年も来ていた。
「加代さん、紹介します。弟の影夜です」
「影夜、加代さん、蝋燭占い師さんの時は青炎さんとおっしゃる」
「へええ、蝋燭占い師さんなんですか。それはうれしいな」
「加代さん、影夜も蝋燭師なんですよ」
「いえ、まだ修行中の身で。兄にはかないません」
なごやかにあいさつがかわされる中、ふと見ると、もうひとつの重箱が卓上に置かれていた。
「これは」
「ああ、それは瑠璃さんがお重を作ってきてくれました」
「わたしも作ってきたんですけど」
加代も自分のお重を、その横に並べておいた。
「これは豪勢なお正月になりましたね」
なんとなく瑠璃を見ると、瑠璃も加代を見ていた。にこりと微笑むその優しいまなざしの中にある火花を加代は見逃さなかった。
「では、お昼の前に初もうでにいきましょうか」
輝夜の誘いに皆、うなづいた。
「わあ、初もうで、初もうで。縁日とかある?」
「ああ、いっぱい出店が並ぶぞ」
そう言いながら、輝夜は紺色のマフラーを自分の首に巻きつけた。
(あっ、それは)
それはクリスマスに加代がプレゼントしたマフラーだった。
加代は意気揚々と初もうでへと繰り出した。
完