語り:上杉政虎
今より千と七百年以上も昔の事、
宋の国に荘士という男がおった…
ある時荘士は夢を見た。
夢の中で胡蝶となり
ひらひらと舞った。
心ゆくまで羽を広げ
天空を舞い遊んだ…。
夢の中で荘士は、
自分が荘士という人間である事を
すっかり忘れていた…
ただ自由な胡蝶の心で、
空を舞う事だけを
心の底から楽しんでいたのだ。
しかし、はっと目が覚めると、
そこには人間である荘士がいる。
つい先程まで、
胡蝶であった筈なのに
今は人間の心となって…
荘士は問う。
それでは、自分とは何なのか?
荘士が夢の中で
胡蝶となっていたのか…
あるいは、
ここにこうしている自分が
今、胡蝶の見ている
夢なのではないか…
そうでない…と、誰に言えよう?
人間である荘士と胡蝶とは
全く違う形をしたものだ…
されど夢の中で、
心は同じであったのだ…
ここにいる自分は、
果たして真の自分なのか?
それとも、
ただこの時にこういう夢を
見ているだけではないか?
……これは、
そういう物語だ。
『二世の契り』より