事の発端は、さて、遡るとひどく遠い

故に、ここから始めよう

彼女たちの内の一人の誕生だ

 

 

正直、彼女の成長については私もそう詳しい訳ではない

私は目にしていないし、

彼女自身が一部の詳しいことを語り続ける以外はしないからである

その為、この部分はほとんどが又聞きを整理したものになる

短くなるだろう、そう期待する

 

 

 

彼女が生を受けた時代は、昭和の時代が終わるまであと20年に差し掛かった頃だ

彼女の両親は、それなりに長く歴史のある家の息子と、田舎の落人部落の娘だった

息子は跡を継ぐ立場に無い為、学はないが勉強をして、大手の企業に入った

そして地方を飛び回る職についた

ある地で知り合った娘と結婚したが、娘の方も大家族の末娘であった為、そこに落ち着く必要は無かった

転勤、転勤と、社宅暮らしが続いた

やがて夫婦に出来た子供が、彼女だ

 

率直に言って、彼女は哀れな人間だ

彼女の育った環境は、まったくもってまともでなかった

そして、彼女の狂った人生が幕を開ける

 

彼女の父親は、その頃働き盛りだった

会社では重要なポストに就き、部下の信頼も厚く、尊敬を集め始めていた

それはひとえに彼の努力の賜物である

彼はこれまでの間に数々の資格を取得し、さらにまだ上へゆかんと勉学を続けていた

だが、故に彼の世界は会社中心で形成されてしまっていた

彼には、家庭はまた別物であり、業績同様、努力せねばその環境は満ち足りないという事が理解できていなかった

努力の方向も仕事とは異なるのだという事も

彼は未熟児で生まれており、それ故幼い頃は甘やかされて育っている

(青春時代は悲惨な体験もした様だが)

その甘やかされっぷりは、末期の戦時中にあって、彼だけ白米を口に出来たという事実から十分推し量れるものだろう

それ故、彼は我儘な部分がある

(これは正直今も残っている)

そして運の悪い事に、彼の妻は厳格な父親や村の風習によって、亭主関白を叩き込まれて育っていた

こうして、彼は家で暴君となった

 

ついで、彼女の母親の話を

彼女は田舎でのびのびと育ち、人付き合いが得意な部類だった

身体を動かすのが好きで、それでいて裁縫が一番の趣味・特技であった

身内に対して情が深く、素直な気質の彼女は、夫のいう事をよくきいた

妻として気をきかせる事も十分にできていた

田舎で生涯過ごしたのであれば、彼女は幸せな人生を送れたに違いない

だが、この時期の彼女は、都会で出世街道をひた走る夫を持ち、社宅にて周囲の目を常に気にする生活を送っていた

団地妻の世界は恐ろしい、社宅となれば尚更

彼女たちの夫は常に社内で比べられる

そこで、彼女たちも否応なく引き合いに出されるのだ

彼女の夫は、夫婦そろって低学歴であるというコンプレックスを克服する為、躍起になっていた

その為、彼は妻に色々な制限を設けた

社宅内のサークルに参加してはいけない、等は彼女にとって大きな損失だった

彼女はバレーボールが好きだ

そんな折、彼女に子供が出来たのは、幸運か不運か

彼女自身は子供を欲していたから、嬉しかったのは本当だろう

だが、悲劇の環境が整った家庭で、沢山の幸せが築ける訳もなかった

 

 

 

長いので、一度切ろう

.

 

 

殺したい人間がいる

 

 

自分の自由な生を思う時、そう考えざるをえない人間が

2人、いる

だが私は、様々な要因から、そうしない道を選んだ

それでもこの事実は、いついかなる時でもこの身を蝕み、苛む

であればこそ、狂気に耐える為、私はここに書き連ねる事にする

我が心の安寧を得んがため、虚空に穿った穴へと叫ぶ

 

彼女たちの人生を

 

 

これは私の為の話であり、私以外がどのような感想を抱くかは保証しない

私自身の関心もまた、そこにははない

ただ、これが現実に起きた事実、または私が耳にした出来事であるという保証だけは行う

私にとり、それ以外は意味がないからだ

 

 

 

.