歩きながら歌ったが歌える唄が途切れ、キクは孫2人の寒
そうな雰囲気に気付き、気を使い話しを始めた。
「ほれ、好夫も晃一も寒いんじゃろ、ほしたら、バアやんの
方に寄りな、体を寄せ合ったら温いけんな」
「ほうか、バアやん」
キクは好夫と晃一の体を自分の方に引き寄せた。
「ほれ、どうじゃろか、もう温いじゃろがだ」
「ほんま、バアやん」
晃一はキクに引き寄せられ晃一もキクに縋り付いた。
「のう、あの高い立派な山が、讃岐富士じゃけんな」
「あれがか、大きい山じゃ、バアやん」
池から少し高い丘陵地に差し掛かり、キクが歩みを止め北
の方角に見える、雄大な見事な讃岐富士を指差した。
「あんな、りっぱな山に、好夫も晃一もなるんじゃわ」
「うん、あんな山にな、バアやん」
母胎機能の偉大さがキクから孫に継承された。
(…もう、病み上がりの遠出じゃったが、ウチの人生に深い
思い出を残したわ、大切な日となったけん…)
池の土手に腰を降ろし話した事をふり返った。
(…あの、療養中に読んだ本が、財産になったわだ…)
キクが語った母胎の不思議が晃一の胸中に刻み込まれた。
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