迫る対中大幅追加関税、米中交渉を控え模様眺めの中で金は反落」(2019年5月9日記)

5月8日のNY市場の金価格は、4営業日ぶりに反落となった。米国が強硬姿勢を強める中で9日に再開される米中通商交渉への見方をめぐり上下する展開で、一時は約3週間ぶりの高値となる1292.80ドルまで買われることになった。その後は、市場横断的に様子見気分が強い中で対ユーロでドルが高値を維持していることもあり、売りが先行する流れに転じ結局マイナス圏で取引を終えることになった。NYコメックスの通常取引は前日比4.20ドル安の1281.40ドルで終了となった。7日は、パラジウムも含め貴金属全般が下げ、銅やアルミなどベースメタルも下げた。米中交渉の行き詰まりによる世界景気への悪影響の波及が懸念され、市況の悪化につながっている。

実際にこの日、米通商代表部(USTR)は中国からの輸入品2000憶ドル相当に課している追加関税を10日午前0時1分(日本時間10日午後1時1分)に10%から25%に引き上げると官報で正式に通知した。家具や家電など約6000品目を対象にした追加関税が上がる。これに対し、中国商務省は「対抗措置を講じざるを得ない」とした。興味深いのは、日本時間8日の午後10時前にトランプ大統領が、「中国は合意をさせるために訪米する」とツイート、同9日0時5分にホワイトハウス、サンダース大統領報道官がロイターなど一部メディアに「中国から米国に合意を成立させたいとの前向きな示唆があった」と発表、その後に中国側が報復措置の可能性を示したこと。双方の温度差を感じさせるもの。中国側は、ワシントンでの協議に送る代表団の規模を縮小したとの情報もある。

ロイターが報じるところでは、「中国政府は米中貿易交渉の合意文書案の全7章に修正を加え、今月3日までに米国側に提示。合意文書案は150ページ近くに及ぶが、中国政府が加えた修正はこれまでの交渉を白紙に戻すような内容だったという。さらに中国は知的財産・企業秘密の保護、技術の強制移転、競争政策、金融サービス市場へのアクセス、為替操作の各分野で問題解決に向け法律改正を行うとの約束もほごにしたとみられる」としている。

この件では、中国側代表者の劉鶴副首相の対米譲歩的な合意内容について、土壇場で習近平主席が却下したとの情報もある。トランプ大統領が来年の大統領選に向けて共和党右派など国内政治バランスに目を向けざるを得なくなっているのと同じで、習近平主席も国内政治勢力との兼ね合いで弱腰の姿勢は見せられないということか。いずれにしても話し合いによる合意事項の文書化をめぐる駆け引きが、結局、両サイドの溝の深さを浮き彫りにしたということになる。伝えられる内容も錯綜しており、結局話し合いの結果待ちということに。


Market Strategy Institute Inc.代表
 亀井 幸一郎(金融・貴金属アナリスト)