バーナンキ流が抱える「透明性のジレンマ」 率直ゆえに揚げ足リスク |
2013/09/21 13:50 日経速報ニュース 1265文字 |
【NQNニューヨーク=森安圭一郎】20日の米株式市場でダウ工業株30種平均は大幅続落し185ドル安で終えた。「10月にも量的金融緩和の縮小は可能」とするブラード・セントルイス連銀総裁の発言がきっかけだ。18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で縮小決定の予想を外された市場の動揺は2日たっても消えず、当局の動きに疑心暗鬼が強まっている。
グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長の権勢が絶頂にあった1990年代末に「ブリーフケース・インディケーター」という言葉があった。FOMCの開催当日、グリーンスパン氏が抱えるカバンの厚さから政策変更の有無を読み取ろうという試みだ。「委員への説明資料が詰まっているみたいだから今日は利上げしそう」という具合。テレビ局が出勤風景を中継する騒ぎだった。 こんなささいなことが注目されたのは、ほかに金融政策を予測する手段が少なかったから。当時のFRBは議長が記者会見せず、声明も簡素。それでいて政策決定の主導権はグリーンスパン氏が握っていたとされるから、同氏の胸の内を探ることこそが大事だったわけだ。 金融政策を属人的な謎解きから引っ張り出し、透明性を高めようとしたのがバーナンキ現議長だった。記者会見を定例化し、FOMC委員による中長期の政策金利予想も公表し始めた。 わかりやすい例がFOMC後の声明だ。2006年からのバーナンキ体制下でどんどん長くなり、9月分は約800語。グリーンスパン時代末期のほぼ4倍だ。その間に世界金融危機が起きて複雑な政策対応が必要になったことも大きい。ただ量的緩和第3弾(QE3)を導入した1年前の12年9月と比べても、今月の声明は4割ほど語数が増えている。 この丁寧さが、バーナンキ議長の悩みと表裏一体に思えてならない。政策判断の過程を率直に述べるほど市場に揚げ足を取られる危険は高まる。それを防ごうと言葉を尽くせば文脈が込み入って意図が伝わりにくくなる。 5~6月に当時の経済情勢分析に基づき量的緩和縮小の可能性に踏み込んで言及したのは結果的に市場をミスリードしてしまったし、18日の声明はそれに対する難解な言い訳のようにも響く。「1年前に資産購入策を始めて以降、米経済と労働市場には改善がみられ……しかしながら、改善が持続的なものだと示すより多くの証拠を待つと決めた」。声明にはこの部分を含め、逆接を示す「but」と「however」が計6回も登場する。 9月の緩和縮小見送りのあおりで、米国債の下落やドル高を見込んでいた投資家に損失が発生したと伝わっている。18日の会見で「FRBが市場を惑わせているのではないか」と問われた議長は「市場の予想に政策を支配させるわけにはいかない」と答えた。勝手に誤解した方が悪いというわけだが、あえて市場に働き掛け、寄り添わせようとしてきたのは議長自身ではなかったか。 金融政策を1人の「独裁者」から解き放つ代わりに、貪欲な市場による干渉も許しやすくなる。バーナンキ流の透明性はこんなジレンマを抱えているようにみえる。 |