安倍政権、海外投資家に照準 「日本買い」訴え

2013/06/21 02:00 日経速報ニュース 1152文字
 安倍政権が経済政策「アベノミクス」を巡り、金融市場関係者との対話に力を入れている。安倍晋三首相は英国で成長戦略などを投資家向けに説明、菅義偉官房長官らは海外ファンドの幹部と接触して日本市場への関心を探る。7月の参院選を控え、日経平均株価や円相場などの動向が政権の信任を左右するとみて、外国人投資家に理解を求める動きを強めている。
 英金融街シティーにある歴史的建造物ギルドホール。現地の市場関係者ら約400人を招いた19日の講演で、首相は成長戦略や財政健全化の取り組みを説明し、日本への投資を呼びかけた。首相は自ら訴えるほか、西村康稔内閣府副大臣らをニューヨーク、香港、シンガポールに派遣。世界の金融市場にアベノミクスを売り込む戦略だ。
 一時、1万6000円近くまで上がった株価が調整局面に入って約1カ月になるが、株価はまだ上昇基調には戻らない。それでも首相や菅長官が経済運営に自信を示すのは、米ファンド幹部ら海外投資家と直接接触し、情報交換していることも影響している。
 「首相の経済政策を強く支持する」。5月23日、首相は米有力ファンドのカーライル・グループの共同創業者のルーベンスタイン氏と30分ほど会談。同氏は早期の円高デフレからの脱却や民需主導の経済成長を目指すアベノミクスを持ち上げた。
 菅長官も米有力投資ファンドでソニーにエンターテインメント事業の分離を提案したサード・ポイントのダニエル・ローブ最高経営責任者(CEO)と5月に意見交換したとされる。ローブ氏は「日本株に長期投資していく」と日本市場に前向きな姿勢を示したという。首相のブレーンである本田悦朗内閣官房参与らも日銀の金融政策などを巡り、外国人投資家と顔を合わせる。
 西武ホールディングスの大株主である米投資会社サーベラス幹部のダン・クエール元米副大統領も政権幹部と接触した一人。面会した政府高官にクエール氏は「日本株は上がる」との見通しを示したという。
 安倍政権が市場に照準を合わせるのは、民主党をはじめ野党の党勢が低迷する中、参院選に向けて市場の動向が懸念材料になりうるとみているためだ。
 アベノミクスによる景気回復の実感が国民に広く浸透するのはこれから。それまでは株価が内閣支持率を下支えする。東京株式市場の売買代金シェアの6割を海外投資家が占めるなか、海外への積極的な情報発信は、株式市場などを安定させるうえで重要だとの判断がありそうだ。
 ただ市場が見極めようとしているのは、成長戦略などの実現性だ。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融債券為替調査部長は「口でいくら言っても変わらない」と成長戦略などをどう実行に移すかが重要だと指摘する。市場の期待にこたえ、海外の投資家を引きつけ続けられるかどうか、首相の実行力が問われる。