今。
ポールソンが投げているとの噂。
ヘッジファンドの雄、ポールソンの誤算 スクランブル
「あのポールソンがここまで痛手を負うとは……」。米国のヘッジファンド業界で名声をほしいままにしてきたカリスマ投資家ジョン・ポールソン氏のつまずきが話題を呼んでいる。
震源は中国だ。ポールソン氏が率いるポールソン・アンド・カンパニーが中国の木材事業会社、嘉漢林業国際(シノフォレスト)に投資を始めたのは2008年3月。当時は保有比率が10%だったのが、一時19%まで上昇した。 同社は中国の南部で木材や森林の管理を手がける。上場市場はカナダのトロント証券取引所。個別企業に注目した徹底的な「ボトムアップ」型で知られるポールソン氏の調査に抜かりがあったとは思えないが、資産の水増しなど不正な会計操作があったとの疑惑が急浮上した。 「公開情報が不透明」として、ポールソン社は17日までに保有株をすべて手放した。同社は口を閉ざすが、米メディアはこの失敗案件もあって、損失額が5億~7億ドルに達したと報じた。シノ社への投資が裏目に出た結果、旗艦ファンドの運用成績は5月だけで約6%下げたという観測もある。 ポールソン氏は、今のヘッジファンドの勢いを象徴する存在だ。金融危機時には、住宅ローン関連証券を空売りして多額の利益を得た。その後も金の上場投資信託(ETF)に積極投資し、金価格の高騰を最大限に享受した。10年にポールソン氏自身が得た報酬は実に50億ドルと、業界トップになったという報道もある。 一般にヘッジファンドは機動的に運用できるように、運用総額を一定の水準に抑えようとするケースが多い。だが、危機後に世界中で知名度が高まったポールソン社はファンドの大型化を志向。日本も含めて世界中をくまなく回り、運用総額は約370億ドルとファンド業界で世界有数の規模にまで成長した。 こうした中で表面化した中国株の巨額損失。今回の一連の出来事は、「そもそも中国企業の財務報告は信用できるか」という根源的な問いを突きつけた。 ポールソン社にとってはそれだけではないだろう。もう一つの関心の中心は「集中投資の是非」でもある。ポールソン氏は限られた銘柄で大胆なポジションを取り、多額の収益を上げてきた。だが、相場が想定と反対に傾いた場合は巨額の損失を抱えるリスクがある。 ヘッジファンドは買いと売りを組み合わせ、どんなときもプラスの運用成績を目指すとされてきた。だが実際のところ、集中投資は大きな収益をもたらす半面、大きなリスクを抱えていることが明白になった。 苦境はポールソン氏に限らない。著名投資家フィリップ・ファルコン氏が率いるハービンジャー・キャピタル・パートナーズ。最近になって主要ファンドに10億ドル規模の償還請求が来ていることが明らかになった。 旗艦ファンドは、高速の通信事業に多額の資金を投じてきた。だが、投資家は「あまりに運用が偏っている」と次第に不信感を募らせ、資金の流出を招いた。ニューヨーク市マンハッタンで豪勢に暮らしてきたファルコン氏のつまずき。この根底にあるのは、これだという銘柄に多額の資金を投じる「集中投資」にあるといえる。 米調査会社バークレイヘッジによると、5月のヘッジファンド全体の運用成績は10年8月以来のマイナスを記録した。金融危機後、マネーの流入先となってきたが、その風向きに変化の兆しがある。 この局面で著名ファンドがどこまで踏ん張れるか。巨大ファンドの行く末は、世界のヘッジファンド投資の先行きを占う重要な材料になる。 |