『幸せになる呪文をひとつだけ教えてあげましょう「ありがとう」(美輪明宏)』
ある年齢以上になると、言葉は自分を表現するためではなく自分を守るために使うようになる。
自分の考えを伝えるのではなく、場と雰囲気をよんでその場に会った綺麗な表現を考える。
自分の考えや心の内側を見せるのは得策ではない。
言い方を変えると自己表現は言葉ではなく、行動で魅せるのがおそらくマナーなのだろう。
私の母はパーキンソン病だった。
立つことも歩くことも食べることも難しくなった。
自宅での生活は難しいとケアマネからも介護事業所からも地域の基幹病院からも
そう伝えられていた。
うちの母の中年期以降は困窮した苦しい生活だった。
一年中、朝から夜遅くまで働いていた。
「~がしたい」という願望は何十年も聞いたことがなかった。
もらったものを返したいという想いとこの人は報われるべきだという想いで
私は母の働く場と居場所を守ることにした。
話す時間、会話をする時間は取れたと思う。
束の間だが一緒にいることもできた。
ただ、どうしても伝えられなかった言葉がある。
口にすれば二度と会えなくなると感じながら飲み込んできた言葉。
死後の世界があるのなら、真っ先に伝えようという言葉。
「おかあさん、ありがとう」