酒の話1 冬麒麟 | ababaとmusic

酒の話1 冬麒麟

10月に入ると、急に夜が長くなったことを感じたりはしないだろうか
秋になると、その次にくる冬をも感じられずにはいられない
秋は四季の中で、一番次の季節を予感させる季節だと思っています


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何気なく入ったコンビニで新製品の酒を見つけた 
冬季限定と書かれたそのパッケージ 今や毎年発売しているのではないだろうか
いわゆる第三のビールと呼ばれるその酒は、値段が安いのと、定番商品と違い、季節の代わり目に
たびたび新製品がでるから
気温の変化くらいでしかそれを感じられない そんな場所に暮らす自分にとっては、
こういった商品が今の時季というものを感じ取るものになっているのが現実だ




ファッションもそうであるけど、季節は先取りすることに趣があると思っている
かといって11月になったら各地で始められるクリスマスのイルミネーションはあんまりだが 


冬季限定の発泡酒を見たのはまだ10月に入ったばかりの頃だったが、じきにやってくる寒さを思いながら
レジに向かった コンビニをでると、心なしかさっきより空気が冷たく感じられた



一人暮らしの我が家に着いてみるとなぜか柔らかな光が灯っている ただの電気の付け忘れだったが、
子供のころ、遅くなって帰ったときの家の光を見たような、なんだか懐かしい気持ちになった 
家に入り、日付が変わったのを確認する テレビをつけて、人の声を聞く 普段テレビは見ないけど、
帰宅直後はなんともなしに数分ほどテレビをつける癖がある 声を聞きたいからだと思う



さっと余ったご飯を解凍して、残っていた肉と野菜を炒める 酒と一緒の時はいつもシンプルな調理しかしない(単に料理ができないだけやけど)
気分によってはこのとき既に酒を飲みながら調理をするけど、今日はできれば食事と同時に飲みたかったので、我慢する



出来上がった肉野菜炒めと、ご飯をテーブルに運ぶ 冷蔵庫から酒を取り出す
テレビを消して、音楽に切り替える 最近はもう完全にランダム再生にしている
もちろん気分に合わない曲が選ばれる時もあるけど、それもまた一興
今回はfat jonの曲がかかった 悪くない選曲だ





ひととおりモノが揃ったところで酒を開ける
さすがに一人なのに乾杯とかつぶやくのは恥ずかしすぎるのでまあ普通に口をつけはじめる 
まずは一気に喉に流し込む こればっかりは一人の時も集団の乾杯も変わらない 


旨い  ここでようやく一息つけた気がする
もう一杯続けて飲む 今度は舌で転がす様にじっくり味わう 美味い




この瞬間 この瞬間に、急に自分の部屋の視界が開けた 白熱灯の色がいつもより濃く灯っている
普段以上に部屋が柔らかい光に包まれているように見える もう自分は酔っ払っているのかもしれない


かといってこの日は特にゆっくり味わうわけでもなく、さっと食事を終え、最後の一杯を飲み干した

部屋をぐるっと見渡す なぜだかわからないけどこの部屋もいつのまにか秋が訪れている気がした 



テーブルに置きっ放しの空き缶を見る
今年はどんな冬が来るのだろう 頬に感じるあの冷たい空気、実は嫌いじゃない 
でもその前に秋を考えたい 今年はどんな秋を感じようか そしてどんな冬を迎えようか






クローゼットの奥に閉まっていたマフラーをおもむろに取り出し、首に巻いてみた 
去年使っていた香水の残り香が、微かに匂った気がした