Funeral Wreath -61ページ目

【いつか見た春】

*リクエスト⑧
*ヴィンセント×ギルバート
*現代パロ(苦手な方はUターン推奨)
・G-22歳大学4年
・V-21歳大学3年



【いつか見た




『駅で待ってる』
その一言だけが綴られたメールを一目見て携帯を閉じた。
大学ノートやら教科書やらが入った鞄を肩に掛け、友人の誘いを断りながら部屋を出る。毎回の事なのだが、幸い付き合いの悪い奴とは思われていないようだ。断り文句はいつも同じ。

―待ってるヤツが居るから。

誰でも彼女でもいるのだと予想するだろうがそれは違う。始めは茶化す友人を嗜めたりもしたが、印象としては好都合なので今は何も言わない事にしている。「関係」という点においては間違いではなかったからだ。例えその相手が男だったとしても。例えそれが、実の弟であったとしても。

駅に着いたのは夕方4時。
メールの送り主は黒いズボンに白のカットソーと紺のトレンチコート、割とカジュアルな格好で時計台の前に居た。というのも、自分は朝早く出ていて彼に会っていないからである。
「待ったか?」
声を掛けると振り向いた顔に笑みが刻まれる。
「兄さん」
一つ下の弟は柔和な笑みでこちらへ駆け寄った。
「全然。思ったより時間あるからゆっくり出来るよ」

自然な流れで握られた手を思わず振り払う。驚いた表情で彼は振り向き、笑った。

「…す、すまん」

「それってツンデレ?」

「…もう死語じゃないのか」
今日は買い物をする約束だ。何もせずアパートに帰る日や、外食をして帰る日もある。取り敢えず帰りは殆ど一緒だった。

日が傾き始めた夕時。
学校やら会社やらから帰宅する人々の間をはぐれぬように歩きながら、駅近くの衣料品店に立ち寄った。シンプルなデザインの多い店だ。デザインが好みで且つ組み合わせがし易い。何より値段が手頃である。
「兄さんこれはどう?」
彼が手にしていたのは黒のカッターシャツで同色のネクタイがついたものだった。
「ん…ちょっと格好付けすぎじゃないか?」
「…既に羨ましがられる顔でしょ。これくらいの方が丁度いいって」
ぐいぐいと半ば強引に手渡され試着室へと背を押される。押されながら何ともにこやかに此方を見守る店員の姿が目の端に映った。
「おい、分かったからお…―!」
「―――行ってらっしゃい?」
唇に残る柔らかい感触。瞬間的な出来事に呆けている間に、弟はにこりと笑ってカーテンの向こうへ消えた。
「……ッヴィンス!」
「兄さん静かに」

結局あの服はお買い上げと相成った。試着後にカーテンを開ければ男性店員と話しをする弟が居たわけで。似合う似合うと勧められるがままにカウンター行きだ。そして会計は何故か彼がしてくれた。
「嘘。気づいてなかったの?」
「?何が…」
「自分の誕生日。服は着てみて貰わないと分からないじゃない」
今日は何日だったか。脳内を一周するように考えて気付く。彼の言う通り自分の誕生日はもう2日後だった。大学4年生にしてそれなりに忙しい日を送っていたとはいえ流石に少々こたえた。

「あーあー…成程」

「成程言うな」

内心で涙目になりながら、力なく笑った。

「早いけど、ありがとう」


アパートに着くとさっそく着てみてと言われて困惑した。

「もう?明後日くれるんじゃないのか?」

「いいじゃない。当日はもっといいもの用意してるから」

いつものように笑顔を見せる彼に不安が残る。穏やかな顔をして、反面何をしでかすか分からない性格をしているのだ。兄弟といってもそこまで読み取る事が出来ないのは自分が疎いだけなのだろうか。

しかし結局その笑顔に押され、仕方なく着替える。自分で言うのは何なので、こう言おう。彼の見立ては間違っていないらしいと。

「うん、よかった。やっぱり似合うって」

「…ありがとう」

こそばゆい感覚に何だか落ち着かない。

所在なくて座ろうとした瞬間、世界は暗転した。

「おぃ…!」

後頭部を抱きかかえられるように倒れた為痛くはないが、ネクタイを思い切り引っ張られたお陰で首筋がひりひりする。抗議の声と共に圧し掛かる人物を見上げると彼はまだ微笑んでいた。他人には温かく見えるその顔も今は何故か薄ら寒い。

「そんな怖がらなくても大丈夫だってば」

首筋をなぞる指がネクタイに止まった。

まさかと思い見つめる先でシュルと布の解ける音が鼓膜を打つ。この音には慣れない。自然と身体が緊張してしまう。曝された肌に彼の冷たい手が触れた。

「この音、興奮するの?」

「――ちがっ…ぅ、ん!」

唇が深く重なり呼吸の術を奪われてゆく。

「…ん、……ぁ…ヴィンス…ッ」

自分より幾分小さい身体であっても上に被さった状態では抵抗も意味を成さない。求められるままに肌を晒し、快楽を植え付けられていくのだ。

狭いアパートの天井を見上げながら息次ぐ間もなく意識は溺れて行った。


「――――…はな?」

詳しく言えば、桜だろうか。霞んだ目の先で窓の外を舞う花を見た。

仰向けになったままぽつりと呟くと、今度は隣で寝ていた弟が目を覚ます。ぼんやりとした目に徐々に光が差し込んだ。彼もまた花を目に留めるが、複雑な表情を浮かべただけだった。

「ギルは…卒業したらここを出る?」

「…いや、まだ決めてないが」

「近くに就職するとも限らないしね」

「出来れば近くにしたいと思ってはいる。そうしたら此処を出なくていい」

「……」

「両親が居ないから、独立してるのと変わりないしな」

「―――そう、」

彼は上着を引き上げ顔まで被ってしまった。

素っ気無い一言ではあった。しかし最後の一言を口にした時の表情を見ればそれはひっくり返る。嬉しさより、安堵したと言うような穏やかな顔だった。彼は真っ直ぐに自分を求めてくれる。しかし自分はまだそれを倫理的な面において本心から受け入れ切れていない。そのことに後ろめたさを感じた。

手が自然と放られた煙草へと伸びる。

自分も彼も弱い人間だ。弱いから互いに何処かで依存して離れられない。だがこれにもいつか終わりが来るだろう。その時までにまた別の区切りをつけられるようにならねばならないのは確かだ。薄っすらと上がっては消える煙を意味もなく見つめた。

「――兄さん、寝よ?」

「あ、あぁ…すまん」

少し驚いた。 いつから此方を見ていたのかと言うのと、少しの罪悪感が内心を埋める。煙草を一ふかしして灰皿へ押し付けた。少しもったいない長さだったかもしれない。

「…本当の卒業は何時になるんだろうな」



【いつか見た



それは多分、きっともっと遠い春の話だ。






*ぽぽ様へ。

ごめんなさい、エリオットと絡ませられませんでした;;

きっとこれをシリーズとして続ければエリオットが出しやすいかも知れません!

うぅ、何にしても現パロ難しかった!私が決めたんですけど!((

この設定に慣れればなんとかなる気も…するのですが;

お気に召されませんでしたら申し訳ないです。

エリオットの出張る時は今後必ずつくりますのでお待ち頂けると幸いです。

リクエストありがとうございました!