【パンドラの箱】4―develop―
*ルーファス×ブレイク
*3の続き
『ワカラナイ』は、最大の恐怖。
【パンドラの箱】4―develop―
白い髪から滴る雫をバスタオルで拭き取る。
何やら得体の知れぬ倦怠感に、思わずため息が漏れた。
「・・・この場合、得体は知れてるんでしょうかネ」
誰も聞いてやしないのに声に出してしまった。
再び漏れそうになる溜息を飲み込み、
シャツを羽織った身体をベッドに投げ出した。
そうして天井を見上げた視界に一束の書類が映る。
「あー・・・」
サブリエに関する調査書だ。友人に見せねばならない。
(嗚呼、なんて事―――)
朝が来た、らしい。
「―――?」
目前に広がる世界は俄かに明るかった。
およそ朝であろう事は予想出来るが、如何せんはっきりと視えない。
寝起きで霞んでいるのかとも思ったがそうではなさそうだ。
(・・・・・・水銀)
先日強制された『戯事』を思い出す。
嫌な予感がするも、ごく微量と言った男の言葉を信じるより
他に無かった。症状は一時的な物なのかも知れない。
日常生活的には問題なくこなせる自身があるものの、周囲に
勘付かれでもすると厄介だ。
「・・・仕方ないですね」
起こした身体に衣服を纏い、机に置かれた書類を手に取った。
「・・・・・」
「何じゃその不満そうな顔は」
「貴方に用じゃありません」
「・・・仮にも屋敷の主に向かって言う言葉か」
「レイムさんはいらっしゃいますかバルマ公?」
この敷地に入ったが運のつきか。
屋敷内に入る前に当主に出会ってしまった。
予測された最悪の事態を起こすとは、今日の自分は
相当運が無いらしい。
「生憎使いに出しておってな。今はおらぬ」
「そうですか。では、帰ります」
「帰るのか?我が自らもてなしてやらんでもないぞ」
「反吐が出るほど結構――」
背を向けかけたその肩に細長い指が絡んだ。
『――昨夜はよく眠れたか?』
耳元で囁かれた言葉がぞくりと身体を震わせた。
掴む指先が襟に掛かりうなじの辺りをなぞってゆく。
「・・・男の夜の心配なんて、貴方も暇ですね」
「瞳孔が少々濁っておるな。視えておるのか?」
玩具を買い与えられた子供の様に、浮き立った声が癪に障る。
「お陰さまで・・・見えてやしませんよ」
語尾が吐き捨てる様な声音になった。
ふと自分はそれなりにいら立っているらしいと他人事のように思う。
背後に貼りつかれ手を掬われた。ダンスの誘いの様だ。
(・・・さしずめワタシは女役ですか)
真白い手袋の中にルーファスの指が入り込む。
その手はブレイクの指をさすり、性感帯を探る様に弄ってきた。
後ろに引かれて揺らいだ身体が相手の腕に納まる。
「いやに大人しいの」
「別に、面倒なだけですヨ」
驚くほどに無表情な声だった。遂に自分も人形に成り下がったか。
「―――!」
そんな考えをしている間に、首筋に生温かい物が伝った。
「・・・何してるんです、この変態侯爵」
「言ってやらねば解らぬか?」
すぐ傍で嗤う声が鼓膜に響く。
見えない分、身体を這う手がより生々しく想像で構成された。
風に揺れた紅い長髪が肌を擽り気持ちが悪い。
「・・・青姦でもする気ですか」
「汝にしては随分下品な言葉を使うのう」
いつの間にか広げられた襟元から鎖骨が覗いていた。
「――いや、らしいと言えばそうかも知れんな」
うなじを舐める舌は徐々に無遠慮になっていく。
緩んだリボンタイに繊手がかかり、するりと引き抜かれようとした時
屋敷の前に一台の馬車が到着した。
身体を拘束していた腕が離れ、咄嗟に襟を正す。
「・・・帰ったか」
「――只今戻りました、バルマ公」
如何にも誠実と言う言葉の似合う男が一人降り立ち礼をした。
「レイム、汝に客人じゃ」
顔を上げた彼と、バツの悪い自分の視線が合った。
見えてはいないが雰囲気で分かる。
「―――ザクス?」
何故と訊こうとする彼を遮ってルーファスは口の端を引き上げ
愛用の扇を広げた。
「立ち話など無粋じゃて、客人は持成してやらねばなるまい?」
見えない光景に、警鐘を鳴らす音だけが響いていた。
【パンドラの箱】4―denelop―
一歩踏み出したその足は、闇に囚われ真っ逆さま。