Funeral Wreath -165ページ目

【The last waltz 】

*ブレイク×シャロン

*軽く本編無視の捏造話




痛みの先の『幸福論』



The last waltz】



曇り霞んで落ちて覚醒。
熱くて震える目蓋と零れそうになる嗚咽をこらえて手を握り締める。

織り込んだ指の爪が、手のひらに鋭い痛みをもたらした。

(いけない、泣いてはいけない)

精いっぱい振り絞ったくしゃくしゃの笑顔に頬が震えた。


『それは笑顔と言えるものだったでしょうか?』

『貴方はそれに気付いてくれたかしら?』


きっとそれは聞くまでもない事。

貴方の驚いた様な顔に、つい苦笑してしまう。

「私だって、何時までもか弱い少女ではないのですよ」

「これはこれは。大変失礼致しました、本当に…」

か弱く無い事は重々承知でしたが。なんて言う彼の手の甲をつねって粛清。

本当はリードしてもらう事を夢みていた自分が差し出す手。

ちょっとだけ切ない様な、そんな気持ちになりながらも重ねられた手に安堵した。

(共に歩くとは、こういう事でもあるのね)

『互いに支える』というよりは『補い合う』と言う方がしっくりくるかも知れない。

今彼の視界にとって自分は居ないに等しいだろうが、自分が彼を導いている。

割合で言えば不公平なくらい彼の負担は大きい。

しかしだからこそ、今の自分の役目は望んだ形でなくとも喜びを感じさせていた。


「ブレイクそれでは私が動けないでしょう」

「…もういっそコレを最先端の舞踏にするという案は」

「却下です」

「まぁそう仰らず、」

円舞曲のリズムとは程遠い、ぎこちない動きでカクカクとステップを踏む。

あれだけ運動神経が良いというのに、有る意味流石という程センスが無い。

「ミスターワンマンプレイの名は伊達ではありませんわね」

「…恐縮デス」
冷や汗と苦笑を浮かべた彼の表情につられ、クスクスと笑いが込み上げる。

きっと自分たちの関係もこんな感じなのだ。

どれだけ長い事一緒に居ても不器用だからなかなか歯車は円滑に回らない。

少しずつ少しずつ小さな錆を探し落としながら、時間をかけて綺麗にしてゆく。

「きっと上手くなりますから。ほら、諦めない!」

「はいはい、了解デスお嬢様」

ダルそうにしながら、それでも満更でもなさそうな調子で彼は再び私の手を取った。

しかし疲れないかという彼の気遣う言葉に私は自信たっぷりの笑顔で宣言した。

「知っていますか?私は貴方がペアなら、疲れ知らずになれるのですよ」



夜も更け、後はベッドへ入るだけだ。

しかし今夜はまだ眠りたくない気持ちだった。

今日という日をもっと鮮明に、鮮明に記憶しておこうと羊皮紙にペンを走らせる。

今までのどの一日よりも深く傷つき、どの一日よりも幸福を感じた日だ。

「……」

暫く経つと流石に疲れも出て来たようで、時計を見ながらペンを置いた。

蝋燭の火にふっと息を吹きかけると、辺りは暗闇に満たされた。

「彼の視界も、こんな感じなのかしらね…」

無意識に、ぽつりと呟く。

その何気なく零れた自分の言葉に何故だか胸の辺りがずしんと重くなるのを感じた。

あの時の夢心地はまだ続いている。

だから余計に彼の目の事こそが夢で有ればどんなにいいかと思わずにいられない。

そう思った瞬間、吐き出さずに押さえていたものが再び込み上げた。

喉の奥が焼ける様に熱くなり、気付けば両手で首を押さえていた。


「ぅ…くっ……!」


自分は決して強くない。

しかし強くないからこそせめてあの人の前だけでは強く居られる様になりたい。

そんな事を思いながら、最早せき止める事の出来なくなった零れる涙と嗚咽を

私は必死に噛み殺そうとしていた。





The last waltz】―end―





どうか、今だけは私の為に泣く事を許して下さい