◇花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに◇
名人・クイーン戦続き。
名人戦観戦を通して、それぞれの胸に宿った想いとは?
そして季節は春。
瑞沢かるた部にも新入部員が加わり、物語は新たなステージへ!
以下、ネタバレ有感想です。
◆名人戦、それぞれの想い
次元の違う名人の実力を見せつけられ、凹む瑞沢かるた部メンバーたち。
しかし、それぞれが仲間の存在を励みに前へ進んでいきます。
【千早の場合】
“一字決まりが28枚”
それを聞いた時、千早の中に何か閃くものが。
しかし、まだその気付きの正体に確信を持つことができません。
名人・クイーンとのレベルの違いに落ち込む千早。
そんな千早を救ったのは、机くんの言葉でした。
「綾瀬にも20枚あるみたい 一字決まりが」
それを聞いた千早の中に、新しい世界が拓けます。
街中にあふれる全ての音を千早の耳が捉えるかのような描写、とても印象的です。
“大事なのは 机くんが気付いてくれた 聞こえてること教えてくれた ”
“私はいつかもっとマシなものが返せるかなぁ”
自身の膨大なデータから、聞こえていることを教えてくれたこと。
ぼくのデータを信じろ、と言ってくれたこと。
千早にとっては、聞こえているということよりも、机くんが自分のことを考えてくれていたことが嬉しかったんですね。
机くんって、いつもさりげなく千早に必要な言葉をくれますよね。
千早の強さは仲間から良い影響を受けて育まれた部分が大きいですが、その中でも特に机くんの存在は大きいような気がします。
【新・太一の場合】
新は名人戦を観ながらじいちゃんの部屋で札を並べ、自身の名人戦をイメージ。
ただただレベルの違いに凹むばかりの他のメンバーと違い、「どうすれば周防名人に勝てるか」を明確にイメージしているところが新らしくてかっこいいです。
しかし、イメージに追いつくためには、明らかに同じレベルで練習できる相手が不足しています。
イメージと現実のギャップに苦悩する新。
一方、太一は名人の次元の違いを見せつけられて以来、モチベーション低下気味。
珍しく新に電話します。
電話の向こうで実際に札を並べ、「見えてくるで 名人のこといろいろ」と言う新。
そんな新に太一も勇気づけられます。
敵わない相手と一方的に恐れていた新ですが、その裏には人一倍の努力や試行錯誤がある。
そのことが太一を安心させたんですね。
“新 おまえの世界に「天才」はいないんだな”
これ、ものすごく深い言葉だと思いました。
新は永世名人の孫というサラブレッドぶりが注目されがちですが、実はものすごい努力の人なんですよね。
太一が“才能と戦う覚悟”をしたのはこれが最初のきっかけだったのではないかと思います。
新と太一の関係は、太一が新を一方的にライバル視している分、どうしても対等な関係に見えないところがあります。
しかし、実は新も太一もお互いの存在に救われてるんですよね。
そのぎこちなくも深い関係性が、男同士の友情という感じですごく良いなぁと思います。
【村尾さんの場合】
自宅で名人戦を観戦していた村尾さんに芽生えたのは、新を一人にしておけない、という想い。
そして村尾、動く!
新が電話中なのもお構いなしに、「さ やろっさ」と部屋に上がり込んでくる村尾さん。
村尾さんを見てぱぁっと表情が明るくなる新が可愛すぎます。
本当憎いわ、この人!笑
【かなちゃんの場合】
専任読手の読む日本語の美しい響きに魅せられたかなちゃん。
「専任読手になって千早のクイーン戦で読む」という夢を千早に語ります。
しかし、専任読手への道はものすごく険しいことが発覚。
A級選手であることが条件など、そのハードルの高さに絶望するかなちゃん。
そんなかなちゃんを勇気づけたのは太一の存在でした。
“いまどんなに苦労してても 部長はいつかA級になる。憧れを消すことなんかない”
太一のがむしゃらな頑張りには、見ている方もすごく励まされますよね。
瑞沢かるた部の中ではすっかり保護者的ポジションのかなちゃんですが、これから少しずつかなちゃんの成長物語も展開していけばいいなぁと思います。
このように、ちはやふるではお互いがプラスに作用しあう関係が印象的ですよね。
◆新入生
季節は春。
新入部員を5人集めないと部室返上、という指令を受け、瑞沢かるた部メンバーたちは新入部員獲得に奮闘します。
しかし、集まったのは太一目当ての女子ばかり。
その筆頭が、ちはやふるでは珍しい生粋の恋愛脳の持ち主・花野菫。
第50首の冒頭が菫ちゃんのモノローグから始まりますが、なんかもう嫌悪感しか感じませんでした。笑
そんな状況に諦めモードの部員たちですが、なぜか新入生に執着する千早。
自ら教育係に名乗り出ますが、その人数は日に日に減っていく一方。
さらに、新入生が入ったことで部員たちそれぞれの方向性の違いが明らかになりました。
名人・クイーン戦を見据える太一
高校選手権団体戦優先派の肉まんくん
礼儀作法重視のかなちゃん
楽しくやれればいいという環境重視の机くん
しかし、さらに上を行くのは貪欲なヒロイン・千早。
「私がいまいちばん大事なのは 太一がA級になること」と言って部員たちと読者をドキッとさせておいて
「目標は高校選手権団体戦優勝、個人戦各階級優勝、1年生教育にも力を入れて北央学園みたいなかるた強豪校になるの!」と…
そのあまりの強欲さに驚く部員たちですが
「後輩ができたら卒業してもかるた教えにくるんだぁ」
そう言って無邪気に笑う姿に、ただ思いつきで言っているだけではない、千早のかるたへの想いの強さを知ります。
そして、なぜそこまで新入生にこだわるのか、千早の本当の気持ちが明らかになります。
「去年の全国大会で倒れて棄権してから もう一人部員がいてくれたらって毎日思ってた」
「絶対放っとかない」
去年の全国大会で棄権したのが本当に悔しかったんですね。
そんな千早の想いを知り、他の部員たちにも少しずつ変化が。
良くも悪くも周りのことが見えすぎていた太一は、少しずつ自分のことだけを考えはじめました。
また、自分たちで勝てればいい、と言っていた肉まんくんは、1年生の筑波くんに「強くしてやるから」と。
最初はどうなることかと思いましたが、新入生が入ったことでそれぞれが良い方向に変わっていきそうですね。
正直なところ私自身、瑞沢かるた部の話は創立時の5人のままこれからも進んでいってくれたらいいのに、と思っていました。
せっかく今のメンバーで良い関係を築けているのに、それを壊すことないと。
(詩暢ちゃん初登場時の感覚に似ています。平和な今が崩れていく感じというか…)
しかし、更なる成長のためには変わっていくことも必要なんですね。
恋愛バカの菫ちゃんと不気味な笑顔の筑波くんという2人の新入生を迎え、さらにキャラが濃くなった新生瑞沢かるた部。
この新しいチームがこれからどう成長していくのか、楽しみです。
◆恋愛バカ
恋バナ砂漠の瑞沢かるた部に突如現れた、生粋の恋愛脳・菫ちゃん。
絶対にかっこいい彼氏を作る!と意気込み、太一にロックオン。
初めはミーハーな気持ちでしたが、徐々にその気持ちに変化が。
きっかけは、二人きりの帰り道でのこと。
「自分より辛い思いをしている人がいるかもしれないから、席が空いていても座らないようにしている」と健気な女子をアピールする菫ちゃんに、太一は
「いいんだよ、花野さんも体調悪いんだから」と。
さらに菫ちゃんが恋愛の話を振ると
「男が女に選ばれてどうすんだって思う。おれは選んでがんばるんだ」
とまっすぐな眼差しで答えます。
太一の優しさや誠実さに触れ、その内面的な部分にも少しずつ惹かれていく菫ちゃん。
しかし、同時に痛感します。
“怖いくらい痛感する。真島先輩は絶対私を選ばない”
“いやだ 私だって選びたい。私は 後悔の歌なんか詠わない”
さらに太一は“なんでこんな人がよりによってかるたなの?”と思うような掴みどころのない人。
それでも菫ちゃん、負けません。
そんな太一のことも“わかりたい”と強く思います。
チャラチャラしてるように見えて、実は意思の強い子なんですね。
初登場シーンは悪い意味で強烈なインパクトでしたが、これからは良い方向に変わっていってくれそうな兆しが見られます。
(爪も切ってくれたし!)
菫ちゃんの登場で、太一と千早の関係にも何か変化が起こるでしょうか…?
◆戦いたい相手
新念願の村尾さん復活!
福井大会で村尾さんに敗れ準優勝となり、グゴゴゴ…となる新ですが、村尾さんを見つめる優しい表情が素敵です。
そして新にも変化が。
「ぼくの目のまえの本命は高校選手権です」
「戦いたいやつがいるんです」
新も高校選手権に照準を合わせました。
今後の戦いに新がどう絡んでくるのか、楽しみですね。
◆その他雑感
①イメージ
新の想像の中での新VS周防名人の画が私得すぎました!
新の袴姿最高!
周防名人も、“感じ良いけど感じ悪い”には笑いましたが普通にかっこいいですよね(ぇ
新が将来名人戦で挑む相手はやはり周防名人になるのでしょうか。
いつかこのイメージが現実になる日が楽しみです。
②新の太一へのデレ感について
太一からの電話に無邪気に喜ぶ新が可愛かったです。
「あけましておめでとう!」って。笑
新は千早に対してはいつも冷静なのに(再会の時も、かささぎ電話の時も)、太一に対するこのデレ感は何なんでしょうか。笑
*****
新たに始動した新生瑞沢かるた部。
次巻からはいよいよ高校選手権です。
新も参戦し、どんな戦いになるのか楽しみですね。
10巻感想に続きます!