宇野side






「おい、実彩子待てよっ」





なんて後ろから追いかけて来る物体なんか知らない.   うん、本当に知らないんだから.




宇「……っ」





バタバタバタバタ







バタバタバタバタ




ガシッ





後ろの足音は私がどんなに頑張っても近づいてくる.   手を大きく振って逃げ切ろうとするけどあえなく捕まってしまった.




これほど自分の運動神経を呪ったことはない.






西「なあに不貞腐れてんだよ」

 


後ろからかかった声.   まるで小さい子をあやすみたいな言い方.   なんかムカつく、




宇「…誕生日くらい、可愛いって言ってくれたっていいじゃん、ばあか、あほ」




一応今日誕生日なのに.  ここまで可愛くないって否定されると流石に落ち込む.  いやまあ、可愛くないのは自分でも承知の上なんだけどね.  性格とかも…





西「……可愛いよ?」





宇「え?いや、今更…」





西「実彩子は可愛いから、ほんとに」





思ったよりも真剣な声で言われるから慌てて振り向く.   やっぱり隆弘の顔は真剣で男の子にこんなこと言われるのは初めてで頬が火照るのがわかった.





宇「……うん.  許す…」




西「…なんだったんだよ」




呆れ気味に言う隆弘.  やっぱりお世辞だったんだろうなとか思いながらも頬の火照りは止まらず.




頬を隠すように掴まれた手首に視線を落としながら言った言葉はあまりにも覇気がなくて自分でも驚く.  可愛いって言わせただけなのにこんなに照れるなんて.  ああ恥ずかしい.




チラリと盗み見た隆弘と目があって慌てて逸らそうとすれば廊下の端から私達の様子を覗くママたちの姿.





宇「あっ!!えとっ、これは違くて!」




西「はぁ?」




怪訝な顔をする隆弘を促すとげえっと声を漏らす.  それと同時にぱっと離された手首.  




西母「ははーん、お熱いことで♡」




宇母「あんたたち実彩子の部屋行ったら?なんならベッドのシーツは洗濯するから使っていいわよ?」




考えること数秒.   たどり着いた結論は私を真っ赤にさせるには充分だった.




西母「やだぁ、実彩子ちゃんママってば破廉恥ー」




西「…………っ!!ばっか、クソ親っ」




意味に気づいたらしい隆弘も真っ赤な顔で抗議して私を引っ張って私の部屋へと歩き出す.  今度は手首じゃなくて、手を取られて.




宇西母「たのしんでー」




ママたちと私達を断ち切るみたいに私の部屋の扉をバタンっと閉める.  



西「……さっきのことは…、忘れろ」




宇「……うん」




西「あ、そうだ……」




宇「……なあに?」




西「目瞑って?」





宇「変なことしないでよ、」





嫌でもさっきのママ達の会話を思い出す.   ホントに純粋な子供たちの前でそんなこと言うなんてやめてほしい.





西「しねーよっ、ほら早く」




宇「…ん、」





仕方なく目を瞑ると、首にひんやりと冷たい感覚.




宇「ひゃっ」




西「ちょ、暴れるなっ……、」





かなり近くにいるのか、隆弘が言葉を発するたびに吐息が耳にかかる.   



西「実彩子、大丈夫だから落ち着けよ」




耳元で囁いた次の瞬間、次は手首に冷たい感覚が襲う.




宇「…冷たあっ




西「はい……笑……目、開けて?」




ゆっくり目を開いて、冷たい感覚に襲われた手首に目を移す




と、





宇「綺麗……」






紫色のブレスレット.   あ、これ私が欲しいって言ってたやつだ.  冷たい感覚の正体はこれだったのか.





西「こっちも」





ツンツンと自分の首筋を突く隆弘に促されて鏡を見てみると




宇「え!!!」





紫のダイヤが埋め込まれたネックレス.  想定外.  私の好みと完全一致でやっぱり隆弘は凄いと思う.




西「それ、俺と色違い」




ポケットから橙色のダイヤのネックレスを取り出す隆弘.  




宇「あ……ありがとうっ、高かったよね…」




西「直也さんに頼み込んで、今月分のお給料前借りしたんだ」





宇「…そこまでする?」




西「…そこまでしないと怒るだろ?」





宇「…うん」





え、隆弘ってこんなに優しい人だったっけ.  昔はやんちゃでいつも私に意地悪してニヤニヤ笑ってるイメージだったんだけど…



   


宇「…毎日つけるよ、ありがと」




西「おう、俺もそうする」




鏡を見る私に “似合ってる” なんてフワリと笑う隆弘.   ほんの、ほんの少しだけ…お馬鹿な隆弘の人気の秘密が分かった気がした.





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