西島side






西「…直也さんのどこがいいの」





口にしてしまった言葉は今更取り消すことなんて出来なくて彼女の瞳が更に大きくなった.   繋いだ手に力がこもる.






宇「えっ、あ、えっと…、」






西「あんなおじさんより……っ、いや、なんでもない」






“俺にしとけよ”  なんて臆病で関係が壊れるのが怖い俺は言えず、更に俺をイライラさせる.  




宇「おじさん、か笑」




西「……っんだよ」




宇「ううん、なんでも。……靴紐、ほどけてるよ」






西「…あ、ほんとだ。先歩いてて」






うん、と答えた実彩子が長い影を落としてゆっくり歩き出す. いつもよりも少しだけ高いポニーテール.   背中にペコちゃんがプリントされたTシャツ.  実彩子のスタイルの良さが際立つGパン.  誕生日ガールの癖に変に服とか飾らないところも全て含めて好きだから.  





俺は彼女の背中のペコちゃんから視線を逸らして靴紐を結び直す.




と、その時、





宇「隆弘ーっ!夕日綺麗だよっ」





先に歩いていた実彩子がこっちを向いて大声で叫んだ.  実彩子の後ろに夕日があるわけで逆光で実彩子の顔は見えないけど可愛いんだろうなとか.   その距離、30m.




実彩子の後ろにピントを合わせるとやっぱり綺麗な夕日.  夕日のオレンジと空の赤紫がいい味を出していて.  




西「……本当だな」






“夕暮れ   自転車から見上げた空




キミの町にも  ほら  夜が降りる




些細なツマヅキさえ心揺らす




キミも僕も多分  似た者同士だね”






宇「上がって上がって」





西「お邪魔します」





この家来るの、何年振りだろう.   もう3年ぶりくらいになるかな.   最近はなんだかんだで来てなかった気がする.





宇母「あら隆弘くん!お久しぶりね」




西「あ、ご無沙汰してます」





西母「あ、実彩子ちゃん!可愛くなったわねぇ〜隆弘もそう思うでしょ?」





西「そうか?」




“お前が1番可愛いよ”  そんな本音は胸に閉じ込めて、笑いながら顔を覗き込むとギロリと睨まれる.  実彩子は目が大きいから怖いんだよな.




宇「実彩子が1番可愛いよの間違いじゃなくて?」




ぎくり.  俺が思っていたことをそのまんま当てられる.   焦った俺は慌てて否定.

 


西「な!!わけないだろばあか!身の程をわきまえろって」



鼻で笑ってやると同時に頭に降ってきた右手.   ばちん.  音がして数秒.  じわりじわりと痛みが広がっていく.




西「……いてっ」





宇「…もう部屋行くから、ついてこないでよね」




ドタドタ.  私いま怒ってます.  そんなオーラを纏いながら駆け足で廊下を進んでいく実彩子.  …ってコケそうになってんじゃん、ばか.




宇西母「あ、らぁ……」




ポカンとした母さん達の視線に耐えきれなくなって、つーか男1人に母さん2人っていう構図に耐えきれなくなって




西「ちょっ、実彩子待てよっ」




慌てて実彩子のペコちゃんを追いかける.  くそ、意外と早いじゃねえか.  運動神経だけは皆無のはずなのに.






ドタドタドタドタ




ドタドタドタ





バカでも運動神経だけはいい、言わば実彩子と真逆の俺が実彩子に負けるわけなく、ものの十数秒で追いつく.




俺の足音が近づいていることに気づいているのか慌てたように手を大きく振り出した実彩子.   手を振っとけば早くなるだろうなんてそんな魂胆見え見えだから.




大きく振られた実彩子の手をがっしりホールドして発した言葉.






西「なあに、不貞腐れてんだよ」




{DCAD5086-947A-4DAD-87BA-AF5A66167AA2}