宇野side
真司郎とはすっかり仲良くなって、お互いタメ 名前呼びという条件のもとで仕事場に着いた .
與「 実彩子ちゃん 袖落ちて来てんで 」
キャラメル味のポップコーンを必死になってすくっているとずり落ちてくる袖. 真司郎が後ろから袖を捲り上げてくれるわけだけど 、
宇「 ちかい …っ てば 」
與「 … っ て言ったって これが限界やねんで 」
真司郎の顔はすぐ隣で少し動けば頬が触れそうで 悪ノリした秀太さんがそんな私たちのことを携帯に収める. それも私の携帯に .
秀「 リア充か っ ま、お前ら 美男美女だし 付き合えば?」
與「 先輩 あとで覚えといて下さいよ … ! 」
宇「 真司郎 揺れないで ほっぺ くっついてるし !」
與「 アカン 実彩子ちゃん ポップコーン落ちとる !」
あたふたしながら終えた2時間の仮バイト. もう私の答えは決まってた.
宇「ここで働かせていただきたいです!」
雰囲気もいいし、秀太先輩も真司郎もすごく優しいし、そして何よりここの仕事楽しいから.
秀「っしゃー!可愛い子入ってくれて嬉しいわ!じゃ與送ってやれ」
宇「あ、でも千晃」
秀「今日俺千晃んち行くから俺が送ってやる」
與「そうなんですか!…ほな、実彩子行こか」
さりげなく差し出された右手 . 恐る恐る手を伸ばせば 待ちくたびれたというように ぎゅっと握られる . 至近距離で分かる身長差に 驚きながら見上げると ライトブラウンの瞳に 吸い込まれそうになった .
宇「 ありが 、と … 」
與「 ……… っ 」
宇「 …… っ 」
手を握られたまま 数秒間 お互いにフリーズ . 真司郎の瞳から 目が離せなかった .
與「 … ほな 行こ 、」
宇「 …うん 」
與「 あ、実彩子ニケツでもええ ? 」
ポンポンと黒い自転車を叩いて確認してくる真司郎に 少しだけ ときめいた .
宇「うん、いいよっ」
與「 よっしゃ 、ほら はよのって !」
くしゃりと 目尻にシワを寄せて笑う君に おじいちゃんみたい だなんて言ってみれば 鼻をぎゅっと摘まれる .
與「 ほな しゅっぱ〜つ !!! 」
夕暮れのなか、坂をかなりの速さで走り抜ける. 捕まった真司郎の腰は細いのに筋肉質だった .
宇「 はっや 、」
與「 なんか 青春って感じやろ ? 」
宇「 えへへ 何言ってんのもう ! …あ そこ左 ! 」
與「 えっ 」
スピードを出したまま曲がれることはなくて やむなく急ブレーキ . 流れていた景色が止まったとともに 目に付いたのは 見覚えのある カフェだった .
宇「 あ 、ここ … 」
こじんまりとしたお店の前に立てられた看板に 書かれていた言葉に 思わず声が出た
宇「 “ イケメン店員 入荷しました ” って … なんであいつが… 」
與「 あいつ ? 」
宇「 ここでね 幼馴染が バイトしてるんだ 、」
與「 へえ … イケメン やんな ?」
宇「 ううん 私のタイプじゃないよ … 泣き虫だし ガリガリだし たらこだし … キュウリも嫌いなんだよ 」
ぶうぶうと アイツのことを 愚痴っていると “ でも結局 好きなんやろ ? ” なんて笑われて 更に頬が膨らむ .
そんな中ゆっくりと走り出す自転車. 風が真司郎の瞳と同じ色の髪をなびかせて なんだかドラマチックだった .
與「 ははっ 実彩子ちゃん 怒らんといてな …はい着いた 」
宇「 ありがと … 別に怒ってないもん 」
與「 はいはい … あ 、せや 実彩子ちゃん LINE交換しよ 」
あの時と同じように LINEの番号を 書いた紙を渡される . 今度は破かれないように そっと ポケットにしまった .
與「 ほな 実彩子ちゃん また明日 、な ? 」
宇「 うん 、また明日 … っ 」
満足げに笑った真司郎に つられて笑う私 . 自転車を押す君が 見えなくなるまで 無意識に ずっと 眺めていた .