ミュージカル「松浦武四郎 ―カイ・大地との約束―」稽古場より
稽古が始まってちょうど一か月になる。稽古初日は武四郎とアイヌ民族の勉強会から始めた。わからないことがあまりにも多すぎる。武四郎が初めて蝦夷地に渡った1845年、蝦夷地はロシアの脅威にさらされており、アイヌ民族は松前藩による過酷な支配を受けていた。歴史的経過から引き起こされた数々のエピソードを脚本に盛り込んだが、その一つひとつを役者が感性で捉えなくては演劇にならない。武四郎はどんな気持ちで蝦夷地を歩いたのだろう。アイヌの人々は降りかかる災難に対して何を思い、武四郎をどんな気持ちで迎えたのだろう。疑問と戸惑いの行ったり来たりが続いている。
阿寒と帯広から合計7名のアイヌの方にわらび座に来ていただき、踊りを教わりながらいろんなお話を伺った。アイヌ文化への誇り、ユーモアにあふれた率直な物言い、一人一人のおおらかな人間性と確信に満ちた生き方に感動した。武四郎がアイヌの人々と出会い感動したのは、こういう事だったのかもしれないと思った。資料や文献だけじゃわからない。話をして触れ合ってお酒を酌み交わしてわかることがたくさんある。私たちの気持ちもわかってもらえたと思う。「わかり合う」ということ、それがどれだけ心を揺さぶるか、大げさに思われるかもしれないが人間として大切な経験だった。
そんな稽古を続けながらずっと考えている事がある。今、松浦武四郎を上演する意味だ。北海道命名150年という節目であることは間違いないが、アイヌとの共生を願っていた武四郎は北海道開拓の方針に失望して「わかりあえず」に開拓判官という職を辞職し、生涯2度と北海道に渡ることは無かったという。
武四郎が果たせなかった夢をこの舞台で未来につなげる事ができたら、と思う。
2年後平和の祭典である東京オリンピックを迎えるが、いまだ世界中で争いが続いている。共に生きるために地球規模でわかり合う事が求められる時代だ。今回のミュージカルは、かしこまったお話ではない。笑って泣いて、五感で感じる舞台で「わかり合う大切さ」をお客様とわかり合いたいと思っている。
全部で21曲になるミュージカルナンバーの半分がようやく出来た。北海道の壮大な自然と豊かなアイヌ文化、武四郎が苦しみに立ち向かう強い意志を感じさせる音楽。その音楽に乗って出演者が目いっぱい踊る。初めてアイヌ舞踊を踊る若手たちも、アイヌの先生にお墨付きをいただいた。
舞台セットも着々と準備されている。今回の特徴は6角形の回り盆だ。6という数はアイヌの人々にとって、「たくさん」を意味する大切な数らしい。豊かな6角形の大地が回る事で、武四郎の激動の人生をダイナミックに描きたい。

