にゃんこの好きなミュージカルベスト5に入る作品です。
過去に東宝の舞台で何度か観劇し、ジャン・バルジャンの人生に感銘を受けたこと。
そして、ジャベール役の村井國夫さんの圧倒的な存在感と深み、朗々と響くバリトンにすっかり魅了されたことを今でも思い出せます。
作品について♪
フランス革命を背景に激動の時代を、社会の底辺に生きる人々の貧困・差別、社会の不条理を中心に、善と悪、愛と赦し、救いや信仰を織り交ぜた、ビクトル・ユゴーによる歴史小説。
普遍的なテーマが壮大な音楽に乗せて繰り広げられる、世界3大ミュージカルの1つです。
今年はロンドン初演から40年の節目にあたり、インターナショナルキャストとオーケストラによるワールドツアーが日本で初上演されるということで、願ってもない機会と思いチケットを取りました。
オーケストラが舞台上に位置し、キャストが登場し歌で物語が披露される。
宝塚だと、「エリザベート ガラ・コンサート」の形式とよく似ています。
「レ・ミゼ」の魅力はいくつも挙げられますが。
優れたミュージカルに必須である、素晴らしい音楽の数々。
照明演出の巧みさや構築の緻密さに、簡素ながらもスペクタクル感のある舞台セット。
そして、言うまでもなく、心を揺さぶるキャストたちの圧巻のパフォーマンス。
どれもがワールドツアーに相応しい超一級レベルで、この上ない満足感と感動が湧き上がる
重厚な音楽を聴いて鳥肌が立ったかと思えば、天上から降り注ぐような清らかな音に包まれる。
こんな感動は、人生の中で何度経験できるだろうと思えた程です。
約30年前も初めてアジア人キャストがメインに採用されましたが、今回驚いたのが、キャストにアジア人が数名採用されていること。
“インターナショナルキャスト”によるとありますが、メインキャストのファンテーヌとエポニーヌが実際にそうで、時代の変化を実感する舞台でもありました。
「レ・ミゼ」は、ほぼ全編が歌で構成されている本格的なミュージカル、オペラに近いような感じです。
物語の展開が音楽で語られている、音楽の力の偉大さ・その美しさに心が打たれ涙が出ます。
オープニングに鳴り響く、重厚にして壮麗なシェーンベルクの音曲を聞いて、それだけで涙が。
「レ・ミゼ」はこれまでに数回観ているので物語がどう展開するか知っているのですが、この音楽のドラマティック且つ重厚さに、観客はこれから始まるドラマの壮大さを知り得ます。
チケットは大変高額でしたが、このオープニングだけでも観に来た価値があると思えました。
100年先にも残る名作で、ミュージカルの金字塔とも呼ぶべき作品です。
ジャン・バルジャン
病気の姪のためにパンを一片盗んだ罪で投獄され、逃亡の罪を含め16年間奴隷のような受刑者生活を送る。
後に釈放されるが仮出所の身のため蔑まれ、雇ってくれる所もなくさらに世の中を恨む。
行く当てがなく彷徨う彼に、神父が救いの手を差し伸べるが、教会の銀の燭台を盗み警官に罪を問われる。
けれど、神父は彼に燭台を差し上げた物とし罪を免れる。
仮出所したバルジャンの心は真っ黒に、“世”というものを大変恨んでいました。
盗みを働く時に葛藤を持ちつつも、“生き延びるため”と理由を付け、燭台を盗み逃げる。
彼の心で悪と善がせめぎ合い、人間らしい葛藤が美しくドラマティックな旋律で描かれ胸を打ちます。
自分を信じてくれた神父を裏切り、自分のしたことに激しい憤りを感じるバルジャン。
「♪ 俺を兄弟と呼び、信じ 救いの手を差し伸べてくれた」
と、歌うバルジャンに心を揺さぶられます。
彼が神父の暖かさや許し・慈悲に触れ、心を入れ替え更生する、バルジャンの人生でもっとも好きなシーンですね。
バルジャンに相応しい大柄で体躯のよさ、そしてイケメンでしたね~
力強いテノールを歌い、また、ささやくように「Bring Him Home」を歌う素晴らしさよ。
聞き惚れますね、完璧なバルジャンでした。
ジャベール
バルジャンを執拗に追う刑事、自らを法の番人と自負する。
強くきっぱりと容赦がない、硬質な声・ガッチガチな様子が冷徹なジャベールにぴったりですね、
ジャベールはバルジャンを強く意識していて、どこか絆を感じているようでもあるんですね。
切っても切れない縁と言いますか、不思議な繋がりです。
「♪神の道を行くのは俺 あいつは炎へと落ちる」
ジャベールにとっては、悪人は死ぬまで悪人でした。
ジャベールの強さは、自分の信念を信じ切っていて、揺らぐことがないことからくる強さ。
それが崩れるのは、バルジャンに命を助けられた時でした。
悪人と思っていたバルジャンに助けられ、立場が逆転する情けなさ・惨めさ。
バルジャンの世界は許しと慈悲に満ちていて、自分はそこに居ることがいたたまれない。
自分の生きてきた道、自分の信念が足元から崩れ落ちることに耐えられなかったジャベールは、セーヌ川に身を投げます。
「バルジャンの世界から 一刻も早く逃げなければ」
歌に彼の辛さが込められていて、胸が締めつけられます。
これまで、ジャベールの自死の理由は理解できていましたが、今回、歌詞をよく聞くことで一歩踏み込め、さらに理解が深まり、自分でもとても納得できたのがとてもうれしかったです。
エポニーヌ
マリウスに恋をする少女、強欲なテナルディエ夫妻の娘。
アジア人キャストの一人、はっきりとした硬質な声の持ち主で、強くエポニーヌの心情を歌う。
歌唱としては申し分なく素晴らしい。
これまで何人かのエポニーヌを観てきましたが、演者により表現方法が違っています。
私が唯一無二のエポニーヌと思う島田歌穂さんは、柔らかな声に寂しさと悲しみと孤独を胸いっぱいに届けられる方で。
人によっては、自分の想いがマリウスに届かないことを怒りに乗せる方もいます、私の好みは前者です。
ファンテーヌ
恋人に捨てられ未婚の母となる、子供をテナルディエ夫妻に預け仕送りをするため工場で働く。
トラブルの末工場をクビになり、売春婦に身を落としてしまう薄幸の女性。
お嬢さんに見えたファンテーヌに子供がいたことが知れてしまいトラブルの元に、当時、未婚の母は蔑まれる対象でした。
夏にやってきた人と恋に落ちるけれど、秋にはもういない。
でも、待ち続けるファンテーヌ、それも愚かな幻とわかっている。
彼女のナンバー、「I Dreamed a Dream」、日本語では「夢破れて」
これまで観てきた日本人キャストと違う解釈で、力強く歌うファンテーヌに驚きました。
コゼット
バルジャンが引き取る養女、学生のマリウスと恋に落ちる。
コゼットを見た時、バルジャンは彼女を守り続け、どんなに愛し育ててきたのだろうかと伝わる清純さ・可憐さを体現されていました。
彼女はたくさんの愛を受けながらも、なぜいつも父と2人きりなのか、孤独を感じていました。
コゼットには愛し愛されることが必要で、マリウスがそうなってくれると思い、バルジャンはコゼットを託すんですよね。
彼女とマリウスはこの物語の中で、光や救いとなる存在なのだと思いました。
これまであまりコゼットに感動することがなかったのですが、歌が美しいだけでもダメなんですね。
マリウスが一目惚れするのも無理はない可憐な女性で、美しいソプラノでした。
おわりに♪
コンサート形式ですが、歌がメインのミュージカルといった感じでした。
カーテンコールは撮影OKだったのもうれしかった!
観劇予算としては厳しいチケット代でしたが、それに見合った、いえ、それ以上の感動があり何度も涙がこぼれ大満足した公演でした。
できればあと1度観たかったけど、日程とオサイフ都合が合わず断念。
本当に、こんな感動はそうそう味わうことができない、生涯忘れられない体験になりました。
ショーストップになるほどの本物のすごさと迫力、代えがたい感動に感謝しかありません。
1度だけですが観ることができて本当によかった、映像化を切に願います。



