学生時代、沢木耕太郎の深夜特急という小説を読み、インドに興味を持った。バックパッカーのバイブルとも言われるこの本を読み、私は妙な焦燥感に駆られた。日本でぬるま湯に浸かっていた私にとって、この刺激こそ必要なものに思えたのだ。浪漫のある旅がしたい、自分の知らない世界を知りたい、現地の人と話してみたい。募る思い。


文学部ながら会計士を目指していた私は大学生時代大いに勉強に打ち込んだ。上記のようなインドに行きたい思いを抱えながら、会計士に受からない限り自由がない状況は、インドを何故か遠い存在に神格化させた。会計士試験は難しい。何度も一次試験に落ちては、私はインドに一生行けないのではないかと思わざるを得なかった。
あまりにも一次試験に受からなかった私は一次試験に特化した勉強を始め、ようやく一次試験に受かったと共にタイムリミットを感じ、二次試験を捨て就活に走った。学生時代の勉強も評価され、就活に苦労はしなかった。インドのことで頭が一杯の私は、気付けば訪れたこともないインドで働きたい旨を強調し、入社面接をこなしていた。


会計士になれなかったことで、この人生どうにでもなれと自暴自棄になっていたのかもしれない。あるいは、私は罰が欲しかったのかもしれない。中途半端な人生などクソ喰らえだ。そんな生き方をしてしまった自分に罰を与えると共に、変化が欲しかった。インドに行けば私も変わるかもしれない。しかし何が変わるのかは知る由もない。


そんな不安定な心情の中、実際に3週間バックパッカーとしてインドへ旅に出ることとした。もしインドが期待外れだったら。。三島の作品「金閣寺」で、青年がずっと憧れていた金閣寺に出会った際、失望してしまうように、私もまたインドに失望しないとも限らない。だがもう後戻りはできない。これ以上自分の人生を否定する訳には行かない。そんな思いを抱えながら、私は単身デリー空港に降り立った。