ドンへと暮らして半年近くになる
今は俺が住んでいたアパートを引っ越してドンヘがいた小屋を建て直し住んでいる
ここなら満月の夜ドンヘが飛び出しても、車にぶつかる心配もなく思いっきり山の中を走れる
そして、俺の計画を実行するのにも、この場所が良いと思った
ドンへと同じオオカミ人間になる…
オオカミ人間になるのは簡単だ
ドンヘに咬んでもらえばいいだけ
簡単じゃないのはドンヘが俺を絶対咬まないってこと
無理に咬ませても事故で咬んでしまったとしても
ドンヘは俺の前から姿を消してしまうだろう
だから、約束をさせた
「…ク…ヒョク」
「ん?おぅドンへ」
「ぼ~っとして考え事してた?」
「うん、ちょっとな。お前のこと考えてた」
「俺の事~!?」
「そう。ドンヘは少しマヌケなとこあるけど可愛くて天使みたいだなって」
「天使って~そんな可愛いもんじゃないよ。オオカミ人間ドンヘだもん。
ヒョクの方が天使みたいだよ。俺のこと愛してくれてる」
「なぁドンヘ。何があっても俺から離れないって…一緒にいるって約束してくれるか?」
「もちろん!ヒョクから離れるなんて…そんなことしたら、俺生きていけない」
「絶対だぞ。約束だ…何があっても一緒にいるって」
ふたり小指を絡ませ約束をした
今夜…実行する
アルコールに弱いドンヘに少しだけ飲ませたら、思った通り眠ってくれた
でも、もう少ししたら目を覚ますだろう
その前に準備を済ませなくちゃ…
「ドンへこんな事してごめんな。こうすれば俺はお前と同じになれる。
俺もオオカミ人間になればドンヘはもう一人じゃなくなる…」
ドンへと離れない様に手首をロープで縛った
オオカミになったドンヘは暴れて俺を咬むかもしれない
「綺麗な満月だ…次、見る時は…」
「んん~…俺…寝てた……えっ!?ヒョク何これ!どうなってんのっ?」
「ごめん、ごめんなドンへ。全部俺のわがままなんだ、お前は悪くない」
「ヒョク…何言ってんの…わかんないよ。
これほどいて!俺、オオカミになっちゃう!暴れて咬みついちゃうよ!!」
「うん、いいんだ…それでいいんだ。ドンヘ愛してる。ずっと一緒だよ」
「そんなのダメだよ…ヒョク…俺、もうダメ…ダ…メ…」
オオカミになったドンヘは暴れて、それでも俺を咬もうとしない
だから、自分からドンへの口の中に腕を突っ込んだ
腕に激しい痛み、そして血が流れた
「痛っ…っく…。あっ!!ドンヘ!ダメだ行くなー」
ロープが解けドンヘは窓から飛び出して行った
いつもなら戻ってくる時間なのにドンヘは戻って来なかった…
あれから何日たったんだろう?
ドンヘがいなくなってから、俺は床に転がったままで
何もしてないし何も食べてない…食べたくない
咬まれた傷は血は止まったけど、腫れていてズキズキする
「ドンへ…探しに行かなくちゃ。何処かで倒れてるかも…」
力が出なくて這って外に出た
ドンへの名前呼んだけど、俺って声出てるんだろうか?
「ドンへ、ドンへ…どこにいる?帰って来て…ドンヘ」
次に気がついたのは小屋の中のベッドの上、腕には包帯が巻かれてる
「ドンへ…いるのか?戻って来たのか?」
「ここにいるよ。バカヒョク」
「あれ…怒ってる?」
「怒ってるよ!ご飯も食べないで山の中で倒れてて…何やってんだよ」
「うん…ごめん。お前が戻って来なくて…何も食べたくなくて。
でも、ドンヘ探しに行かなくちゃって思って…お前は怪我してないか?」
「俺は大丈夫だよ…オオカミ人間だから山の中でも平気なのっ」
「ふふっ、そっかぁ良かった。俺もお前と同じだ…オオカミ…」
「ヒョク…ごめんね。絶対咬まないって…でも、咬んじゃった」
「お前は悪くないって言っただろ。俺のわがままでこうなりたいって思ったんだ。
こんなんでも俺と一緒にいてくれるか?」
「いるよ。当たり前じゃん!愛する人と幸せに暮らすのが俺の夢なんだ。
俺の愛する人はヒョクなんだよ。ヒョクしかいないんだ」
「ありがとドンへ。俺も愛する人と幸せに暮らしたい…ドンへしかいない」
「ずっと一緒だよ」
ドンへの看病のおかげですっかり元気になって、いつもの生活に戻った
「ヒョク緊張してるの?」
「んん~まぁそれなりに。初めてだもんな」
「大丈夫だよ。俺がいるから…ずっと一緒だから」
「ああ、ずっと一緒」
イチゴの様に赤い月
窓辺でドンへと二人その時を待った
「今日の月は赤い色だね」
「ストロベリームーンって言うんだ」
「ヒョク…なかなか変身しないね」
「だな…お前も変身しないな…何でだ?」
「さぁ…何でだろ?」
「俺、緊張して心臓バクバクしてきたんだけど…」
朝まで待ったけどその時は来なかった
それどころかドンヘまで変身しなかった
気持ち良さそうに俺に寄りかかって眠っている
「ドンへ起きろ」
「ん…んあ…朝なの?」
「うん」
「あれ!?ヒョク…変身しなかった!?」
「ああ、人間のままだ。ドンヘ…お前もだ」
「あ…俺…何でオオカミに変身しなかったの?」
「咬まれた俺がオオカミ人間にならなくて、咬んだドンヘが人間になったみたいだな」
「ウソ…?俺…ヒョクと同じ人間になれたの?
俺は普通の人間…ヒョクと同じ…ヒョク、ありがとう」
ドンヘはわんわん泣いた
今まで、オオカミ人間として生きてきて辛くて悲しくて、
それでも泣かずに頑張ってきた分の涙がいっぺんに流れたようだ
どうしてこんな事が起きたのかは分からない
次の満月も、その次の満月も俺とドンヘはオオカミに変身する事は無かった
「綺麗だな…満月」
「うん!すっごく綺麗」
「なぁ、ドンヘ」
「んん~」
「愛してる」
「うん。俺も…ヒョク愛してる」
『ストロベリームーン』
ドンヘが人間になって初めて見た月
俺とドンヘが初めて二人で見た月
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書く予定はなかったんですが、
『ストロベリームーン』と聞いて、これは!と思い書いてしまいました。
ヒョクが望んだ事とはいえ、自分がヒョクをオオカミ人間にしてしまったら、
ドンヘは一生辛い思いをすると思って、ドンヘを人間にしちゃいました(^_^)v
これならふたりとも苦しまないでいいもんね!
ヒョク以外の人を咬んでもドンヘは人間にはなれないんです!
ドンヘにとってヒョクは特別な人ってことです!

