『刺が、
刺が、
刺が、
刺が、
刺が、

この私の愚かな傀儡を内面から崩壊させていくのが見える。
荒れ狂う混沌の渦に踊らされ、
それは、
その人形の心ノ臓に穴を、
穴を、
穴をあける。
あふれ出るのは禍々しいマイナスの温度を持つ衝動。



絲が、
絲が、
絲が、
絲が、
絲が、

この私の醜い傀儡を外面から拘束していくのが見える。
嘆き叫ぶ狂気により見出されしそれは、
その人形の躯を縛りあげ、
自由を、
自由を、
自由を奪った。


踠けばもがくほど、
それは絡まりはなさない。
苦しめばくるしむほど、
それは尚も締め付ける。
足掻けばあがくほど、
それはその腐りかけた器に食い込む。

ヌメっとした感情とともに訪れたのは、
虚無という現実と過去の形跡。
絲により切り離された、
自分自身の身体のパーツ。



哀れだ。
哀れだよ。
哀れだ。



救いようのない現実という拷問と、
やむことを知らないそれを記録するチクタクという神経を破壊する呻き声。
ここでは、
闇すら美しく見える。
闇よりも冷血な、
闇よりも残酷な、
漆黒を越えたおぞましき漆黒の世界。


そいつは、
何を願ったのだろうか、
何を想ったのだろうか、
何を、
求めていたのだろうか。


思考から切断された手首から無造作に突き出された指が差す先にあるのは、
思考から切断された虚ろな眼球が刻みつけるのは、

解放という名の死だった。』
『狂気と正気との狭間にて僕は十字架に束縛された自分自身を呪う。
偉大なる父の手によりて現実をその躯から乖離され、
僕は、
自分自身を、
呪う。

ここでの日常は漆黒に塗りつぶされている。
僕はこんな世界に嫌気がさし、
この胸をこじ開けて、心臓を取り出した。
激しく脈動するそれは異様に愛らしかった。
僕は思わずそれに強く抱擁する。


つぶれるくらいに。


あたり一面に広がる何もかもを侵食していた黒に、
あたり一面に何もかもを燃やすような赤が広がる。


その色彩に畏れ慄き、
僕は湖の真中で、
嗤いながら、
嗤いながら、
嗤いながら、
立ち尽くす。


気づけば此の体躯には大きな穴。
そこから湧き出でる凍りつくほど暖かい慟哭の流れは、
まるで僕の中から全てを奪い去ってしまうかのようだった。

僕は必死になった。
必死に、
その穴に、
目の前にあるものを我武者羅に詰め込んだ。
何もかもを、
すべてを、
すべて、
すべてを詰め込んだ。

この醜躯が朽ち果てようと構わなかった。


満たされるものは何もなかった。
ただ虚しさがこの穴を支配していくだけ。
狂おしいほどの欲望の加速、
そして僕は抑えきれないほどの焦燥と夥しい数の不明瞭な残像に理性という最後の人間としての砦を食いちぎられていくのを感じながら、

もっと、
もっと、
もっと、

求めた。

もっと、
もっと、
もっと、

僕は、
欲した。


僕のなかに点在する人間の欠片は思っただろう。

今天を仰いで神とやらに謝罪したらすべてから解放されたのだろうか、と。
この私は、
やはり咎人なのだろうか、と。
この瞳は、
もう光などうつしてはくれないのだろうか、と。

「この社会の上を、
この世界の上を、
この未来の上を、
歩くことなどもう許されていはいない。
私は、
存在など、
してはいけなかったのだ。
ならばいっそのこと私は此処で消えてしまいたい...
此処で、
消えてしまいたい...」


それなのに耳を澄ませば心臓はかすかながら脈動を続けているのがわかる。

潰されても僕を束縛し続ける此の忌々しい心臓を眺めていたら、
あともう少しくらい永らえてもいいのかな、と思えてしまう。
人間としての理性の破片すら塵に帰しても、
僕は、
きっと僕でしかないのだから。


そして僕は獣となりはてこの赤い地図の上を徘徊するのだろう。
折れた十字架を右手に僕は狂気の世界の訪れを感じた。


ここでは僕は絶対的な捕食者だった。』
『狂気と正気との狭間にて十字架にかけられたキミは嗤う。
何がそんなにおかしいの?

偉大なる父の手によりて現実をその躯から乖離されたキミは嗤う。
何が、
何がそんなに面白いというの...

目を見開いて、
目を見開いてキミを罵倒しよう。
この指で大地を抉り、その血肉をキミにぶつけよう。
何をされても嗤い続けるその壊れた人形を、
この手で、
この手で殴り殺せ!



夥しい、
夥しい量の血液が闇にのまれ、消えていく。

美しかった白銀に輝く両翌も、
今はおどろおどろしい程に漆黒。
全ては闇に、
全てはヤミに染まるのだ。


命のトモシビが弱まり、
どこからともなく流れてくるジャズの音にかき消されてしまいそうなキミの呼吸の旋律を、
僕はこの耳に焼き付ける。
声にならない声でキミはなにを言おうとしてるの?
笑いきれてないキミのその泣き顔で、
キミはなにを語ろうとしているの。

キミの腕に打ちつけられた釘を、
キミの足に打ちつけられた釘を、
キミのその心臓に打ちつけられた釘を、

僕は引き抜いた。

もう自由だよ。
キミは解放された。
キミを束縛するものなんてもうなにもないんだ。


十字架から崩れ落ちたキミは僕の顔を覗き込んで僕が後をむいて立ち去る前にもう1回だけ嗤ってくれた。

その瞳には真っ白な水珠が輝いているような気がした。』
『夜、
不気味な静寂が僕の醜いこの姿を飲み込む。

僕は抵抗することさえ許されず、
ただただこの足が、
この腕が、
この首が、
この顔が胸が心臓が、

蝕まれていくのを傍観することしかできなかった。

無抵抗の、
無抵抗の僕は、
罪を背負い、
罪を背負い明日を想う。



「おはよう。」

朝、
満月が監視するこの温度のない世界の朝は今日も訪れる。
耳元で歌う小鳥はいつものように仮面をつけている。
何もかもが、
何もかもが自らを卑下する世界の朝は何よりもさわやかだ。
誰もかれも、
誰もかれもがその穴だらけの首元にまたナイフを突き付ける。


右を眺めれば彼が死んでいる。
左を眺めれば彼女が死んでいる。
後を見ればあの人が死んでいて、
前をみれば、ほら、




君が死んでいる。


こうして毎日毎日新しい死体が増えていく。


昼、
死体であふれる世界で僕は夜に備えて失った体躯の一部を集め始める。
足を、
腕を、
首を、
顔を胸を、
心臓を。

何もかもを拾い上げて、
何もかもを越えていこう。

置き忘れてしまったものは、
あの死体から奪えばいい。
あなたとの想い出だって、
その死体から奪えばいいんだ。
足りないものは全て、
この死体の山で探せばいい。

そうして私はこの虚しさを乗り越えることができるのだから。
そうして私は、
毎日強く、
強く、
強くなっていける。
強く、
強く、
強く生まれ変わることができるんだ。



静寂が全てを支配するこの世界で、
僕は今日も新しい死体とともにワルツを踊る。



そしてまた夜は訪れる。
夜はまた、

訪れる...』
『見えない。
前が見えない。
前が、
見えないよ。

血で汚れたこの眼じゃ、
何も見えないよ。

何も、
見えないよ...』
『暗闇が何よりも美しく輝くこの閉ざされた世界で、

君は笑う。

生きた足痕をその腕に滲ませながら、

キミ ハ ワラウ。


逃がさない。

逃がしやしない。

僕は、

君を、

逃がさないよ。



その腕を、

こちらによこしてごらん?


折れるくらいきつく、鎖で縛りつけてあげる。

逃げることが出来ないように。


その顔を、

こちらにむけてごらん?


その眼がつぶれるくらいにきつく、包帯で縛りつけてあげる。


何も見ないでいい。

何も感じないでいい。

ただただ僕だけを、

僕だけを、

その小さな体躯に刻みつければそれでいい。


僕は、

君を逃がしはしないのだから...





12時の鐘が鳴り響き、

私は醜い過去の残像から目を醒ます。


忘れられないのは、

君が自由に笑っていたころのあの姿。



左手いっぱいにレキソタンを握りしめ、

今私は再び目を閉じた。


世界は今もどす黒く渦巻いている。』

『誰も求めないこの肉塊(かれ)と。
誰も求めないその命(こころ)と。
それらに気づかない夥しい人間の仮面をまとった影の群れ。

私からみたこの世界には、
それらが蠢く。



かれは無様だ。
群れに踏まれ、
蹴られ、
その存在を押しつぶされている。
かれは無様だ。
この光が輝かない醜い世界にて、
その存在を踏みにじられてる。
かれは無様だ。


そして私はプレゼントを贈った。
かれを救うために。
そして私はプレゼントを贈った。
それは今までその世界には存在し得なかったもの。
命をもてあそぶ、鈍い銀色の光。


その光でその死体を切り刻め。
その光でその死体から見事に色鮮やかな雨を降らせてくれ。




それを右手にかれはドロドロとした温もりに包まれる。
かれは私を想う。
崇拝する。
かれは救われた。
かれは笑っていた。
かれは、
かれは...




...無音が不気味に続いているはずのこの世界で、
私はかれの心臓のうめき声を聞いた気がした。




私は彼に恋をした。』
『心臓は棄てられた。
心臓は想う。
心臓は...



妖艶な月が闇夜に食いつくされ、
みずうみが時の涙で鮮やかに染まる時、

”束縛するモノ”、

それは道化の姿を過去にはり付ける。
宴は始まった。
しかしこの漆黒の宴は体温を歪ませる。


「私ハ、
唯ダ、
ココニ。」

深紅に感染する波紋の上、
そう記された過去の切れはしは宙(そら)より舞い堕ち、
その道化の凌辱の身を嘲(わら)い続けた。


心臓は棄てられた。』
『闇が少しずつ侵食するこの世界(まち)を彩るのは紅。
ドクドクと鼓動するその色は光を失った彼に感覚を与える。


暖かい、
暖かいその流れは

穏やかな、
穏やかなその鼓動は



ボクヲ...トラエテハナ...サナイ...



綺麗な噴水とそれがつくる癒しのみずうみ...


そこには一輪の花が咲き誇り、
僕の小さな体躯は妖艶なるその香りに包まれ今闇に沈んだ。』
『ニヒリスティックな感性が僕の耳元で優しく囁き、
快楽と官能を脳裏に僕は静寂のうちに天(そら)を仰ぐ。

朽ちることのない陵辱の闇に抱かれ、
果てることのない恥辱の光の温もりを思い、
僕は名も無い旋律(うた)を独り口ずさむ。

「若しも闇が許すのならば、
若しも光が捕えるのならば、
私は最大の愛を持ってして、
鏡の住人を討つことが出来たのだろうか。」

「若しも闇が朽ちるのならば、
若しも光が果てるのならば、
私は最小の自分(わたし)を持ってして、
鏡の住人と接吻を交わすことが出来たのだろうか。」

見上げればそこには漆黒の月が。
目を閉じればここには真紅の雨が。

そうして僕は己(わたし)を嘲笑う。
月に捧ぐ旋律が雨に消されながらも永遠に。』