ものみの塔2024年10月号「読者からの質問」

ソロモンの神殿の玄関の高さはどれくらいでしたか。

神殿の玄関は聖所につながるスペースでした。「その長さの前にあった玄関は家の幅の前で二十キュビト，その高さは百二十であった」と「参照資料付き新世界訳聖書」には書かれています。（代二 3:4）他の翻訳でも玄関の高さを120キュビト，つまり53㍍とし，玄関を高い塔のように書いているものがあります。

しかし2023年印刷版の「新世界訳」では，ソロモンの神殿の玄関の「高さは9メートルだった」となっています。この調整の理由を幾つか考えてみましょう。

列王第一 6章3節では玄関の高さについて何も述べられていない。この節で，エレミヤは玄関の幅と奥行きについて書いており，高さについては書いていません。そして次の章で，神殿の特徴の目立つものについて詳しく説明しています。例えば，鋳物の「海」，10台の台車，玄関の外に建てられていた2本の銅の柱などです。（王一 7:15-37）もし玄関の高さが50㍍を超え，神殿の他の部分よりはるかに高かったとしたら，なぜエレミヤはその高さについて触れなかったのでしょうか。数百年後の時代のユダヤ人の著述家たちも，ソロモンの神殿の玄関の高さが他の部分と同様にそれほど高くなかったということについて述べています。

学者たちは，神殿の壁が高さ53㍍もある玄関を支えることができたかを疑問視している。古代においてエジプトの神殿の門のように，高さのある構造物を石やれんがを積み上げて造るときには，非常に大きな基礎を据えて，上に行くにつれて細くなるように造られました。しかし，ソロモンの神殿はそのような形ではありませんでした。学者たちは，神殿の壁の厚さが6キュビト，つまり2.7㍍以下であったと考えています。建築史家のテオドール･ビューシンクはこのように結論しています。「[神殿の入り口]の壁の厚さを考えると，玄関[の高さ]は120キュビトもあったはずがない」。

歴代第二 3章4節の本文は，間違って書き写された可能性がある。この節は，幾つかの古代写本では「120」となっているものの，5世紀のアレクサンドリア･コーデックスや6世紀のアンブロシアヌス･コーデックスなどの権威ある写本では「20キュビト」となっています。写字生が誤って「120」と書いたのにはどんな理由が考えられるでしょうか。ヘブライ語で「100」と「キュビト」という単語は見た目がよく似ています。それで写字生は「キュビト」と書くべきところを，「100」と書いてしまったのかもしれません。

私たちは，ソロモンの神殿の詳細な点を理解し正確に描くことは重要であると考えています。しかし特に注目すべきなのは，その神殿が表していたエホバの偉大な神殿です。エホバがご自分に仕える人たちをその偉大な神殿で崇拝できるよう招いてくださっていることを考えると，本当に感謝の気持ちが深まります。（ヘブ 9:11-14。啓 3:12; 7:9-17）

コメント：最新塔の「読者からの質問」での理解の調整。

新たな知見に基づく訂正は別に構わないと思いますが、興味深いのは、

訂正理由として「学者は建築構造力学的に無理だと言っている」「写字生の写し間違い」を理由に挙げているところです。

聖書には科学と相いれない記述はたくさんあるわけですから、「識者の見方」を重んじることは当然、聖書の記述の信憑性にさまざまな疑問を投げかけることにつながっていき（ゴリアテは身長2.9mとされているけど現代科学からすれば脳に血を送る限界を超えている）

本文が誤って書き写される可能性を認めるなら、他のどの記述についても「本当にオリジナルどおりなのか、改ざんはなかったのか」という疑問も生じるわけであり

聖書の神聖視、絶対視、不可侵性、教条主義といった意識や姿勢が、こういう取り上げ方の記事によってわずかずつではありますが揺らいでいく可能性はあると思います。

※JW Library収録の図より：ゴミ処理場の煙突にしか見えない構造物が、長年間違って描かれていた「高さ53mの神殿の玄関」。この挿絵もやがて差し替わるでしょうから、見つけたらキャプチャしておきましょう。

※追記：Wikipedia「ソロモン神殿」より：

"第一神殿の史実性については、考古学的根拠が全くないため不明だが、エルサレム攻囲戦までに神殿が存在していたことは学者間で共通認識とされている。神殿の規模や建設年については議論中であり、宗教・政治的にセンシティブな場所であるため最近は調査も行われていない" （英語版Wikiも参照すると、ソロモンの神殿については聖書以外の確実な外部証拠はなく、あったとしても誇張、あるいはもっと後代の建物だったはずというのが学者の意見のようです。構造についてあれこれ論じるとしても、「ゴジラの身長は何メートル？」みたいな架空の議論なのかもしれません）

ソロモンの神殿の玄関の高さの調整（塔2024年10月号「読者からの質問」）