かもめ高校バドミントン部の混乱 (メディアワークス文庫)/朽葉屋 周太郎¥641Amazon.co.jp

【初速400キロとも言われるスピードで飛び交う、真っ白なシャトル。
目にも止まらぬ小さなそれを打ち合う華麗かつ苛烈なスポーツ―それがバドミントン。自らの力を信じて、入学した高校でも意気揚々とバドミントン部に入った南太一は、先輩たちとの実力の差に愕然とし、落胆する…。
それでもバドミントンを続けていこう。
そう決意した太一は、ライバルや先輩たちに、正面からぶつかっていく―。 】
(アマゾンから引用)


■ 感想とか色々

「偶然美人の女子高校生と知り合うが、実際の落とし所はずけずけ入ってくるそこそこの顏の女の子の方」っていう法則になんか名前ないの?
あらすじ以上に苦かった部分もあるし、あらすじ以上に軽かった部分もあるのでよかった
軽かった部分は「おちゃらけ王」的ノリです、あれが特に好きだったので、1ページ目読んで即買った。美味しいお蕎麦屋さんいいなあ! お蕎麦屋さんのおつゆの香り大好き。
ドロップキックも猛禽類とかもめも笑った、七不思議的ドアも!

苦かったのは初心者だと侮っていた昴の成長速度
上には上がいて、驚くほどの速さで自分を追い抜いて行く、或いはその場にパッと現れる
勝てるのは今だけ。試合経験の差。

六花高校の推薦枠を取られた朝日先輩や、常に一定のペースを保ち苦しそうな顔を見せない部長の恩田先輩、中学時代唯一試合で勝てなかった伊波とのダブルス、田村・工藤ペアに勝ったらレギュラー確定
部長も認める「採点」をするマネージャー・小糸さん、女子バドミントン部の新入部員柴田さん
新人大会で伊波が負けたシロ、シロのペアで南と少しだけ打った澄田(ダブルス専門の奴らにシングルスでそれぞれ負けてんのな)

太一も伊波も中学時代シングルスだったのでシングルス欲しかったんだけどダブルス
ラーメン食べたり、ガット張ってもらったり、侮っていた奴に負けたり、窓掃除をしたり、迷子になって遅刻したり、べっこべこにへこんだり、マネージャーは伊波に興味があったり、泰然自若としている部長の扇子の中だったり


太一が柴田さん苦手で吹いた
あの子に伊波のことを聞けなかったのもよかったなあ、あの子は本当に初心者で、昴みたいにメキメキ上達するような天才ではないので、多分、バドミントンを、自分のバドミントンが上達するのを、楽しんでいたのは、あの子ではないかな…
昴はあんまり(練習している描写はあったし、他人に聞いては素直に吸収していたけど)そういうのは解らなかった
例えば単純に、シャトルを打つ音が気持ちよかったから、上手くなるのが手に取るように解って嬉しかったから、遊びながらするバドミントンが楽しかったから、始めたものに、本気になって、酸いも甘いも噛み分けて? 苦さも痛みも飲み込んで、始まりの「好き」が掠れて沈殿しても、真っ直ぐに「楽しいから」を理由にできなくなっても。
なんだろうね、なんというか、もう、好きとか好きじゃないとか、そういうんじゃあ、ない気がする
だから、いつまでもまっすぐ、好きだから、楽しいから、できる人っていうのは、すごいなあと思う


試合終了の笛と共に、ピッチの上で泣き崩れた引退試合を、終わったものを、「可哀想」とは思わなかったように、負けて終わった試合を可哀想とは言わない。
昴に負けたときの太一も、インターハイに行けなかった3年も、可哀想とは言わない。
その試合と試合に付随するあらゆることはあんたらの、本人だけのものだ。あるいは、分かち合えた人達との。
わたしには、一切、関係がない。
お互いのラケットヘッドを軽く触れ合わせた太一と伊波が好きだよ、言葉で囲うと壊れるものが好きだし、言葉が必要のない瞬間が好きだ。
というか太一は伊波のこと毛嫌いしてたけど伊波フツーに男前だと思う

朝日先輩の中に残った摩周とは違う重さで、摩周の中に朝日先輩が残ればいい、どんなに時間が経とうとも「昔はあんなこともあったな」なんて、絶対に笑い合えはしない存在として。
あんな風に重く残った存在が、自分のことを歯牙にもかけてなかったら、首を絞めたくなる。

小糸さんは「伊波くんってどういう人?」と太一に聞いたので、柴田さんと太一がなりゆきでラーメン食べてるときに偶然居合わせて「報告」だけして帰ります
この人の「採点」も好きだが、この「報告」も結構好きだったな、要するに「事後報告と激励と自分の役割」の話。
あの人はマネージャーで、マネージャーだから。

扇子を常に持っている人間って、平安でもなければ思い出すのはヒカルの碁の加賀先輩
『バッテリー』の菊池さんが好きだった、菊地か菊池なんだが漢字どっちだっけ。
wiki見てきたら名前すらないんだがまさかの幻の人物…? のはずはない…、巧が交代させられたとき頭下げてボール渡した人です、「お前あのとき「よろしく」とか「すいません」とか言わなかっただろ」みたいなこと言った人、あの人のあの場面が好きでした(海音寺さんの次の部長になった野々村さんに彼女さんいた気がするんだけどいなかったっけ? 野々村さんはいてもおかしくない、恋人の有無=人間的魅力ではないのだが、いると聞いても「だろうな!」と納得できる)
なので、「謝った」太一はあんま好きじゃねえのだが、それでもあの子がそういうことを思ったっていうのは「変化」なんだろうーなー

ちなみに「他人の夢で自分の夢を見る」のは大っ嫌いです、リアルで誰がしてようが「そうですかー」としか思わないが、読むとしたら恐らく全否定、話を聞く価値が見いだせないレベル。
レギュラーになれなかった3年が太一と伊波の背中になにを「託した」かは知らないが(託したのかどうかも知らねえが)、背負うのは重さだけにしとけよ、ああそうか人の気持ちって重いんだなと久々に思った。
「任せる」も「預ける」も「託す」も「背負う/背負わせる」も平気なんだが、なんで「夢」だと嫌いなんだろ。いつだったか「パパは君で夢を見る」(もしかしたら微妙に違うかも)見たときも「はあ?」て思った。お前の夢はお前で見ろよ。

人を思い出すことは嫌いじゃないが、場所に付随した記憶を思い出すのは、嫌い、かも…
あの場所が嫌いだし、あの場所を思い出せることが嫌い、あの場所にいた人を思い出すことはそんなに嫌いじゃない(思い出すこと自体は。嫌いな人間を思い出すしたら思い出したことは嫌いなこと)
あの場所自体の思い出で思い出すことが苦ではない(むしろ好き、というか面白かったこと)はひとつだけだと思う
「誰もいないと思っている状態で個人行動取ってる人間の行動」は結構面白かったし、どこから見てたかも思い出せるけど、これは個人的配分が9:1で人間、「場所」ではない。

いろいろと、思い出せて、思い出したことも込みで、楽しかった
p232の「中指と薬指でブレーキレバーを弄りながら、視線を上げた。」とか、細かいとこでちょこちょこ好き。
朽葉屋さんは「絶望センチメンタル」から入って、「おちゃらけ王」を読んだので、個人的にはそのどちらもって感じかなあ、センチメンタルはそんなに「苦く」はなかった、こっちの方がずっと苦い(笑)
苦いし、息苦しい。
だから太一が柴田さんに教えているときの柴田さんは嬉しかった、ようやく息ができた感じ。「奇祭狂想曲」ではない、あれはちょっと、嫌な言い方だけど「お説教」が若干。
スポーツものもご無沙汰だったな、あまり読まないのは真っ直ぐすぎて眩しいからだし、シロクロつけなきゃいけないので「結局、結末はどっちかだろ」だから。
名前を見た時点で おお! と思ったんだがタイトルで悩んでしまった(バドミントンは好きだが! というか読むので嫌いなスポーツってない気がするが)
買ってよかった!



イラストレーターはくろのくろさん!