雨の塔 (集英社文庫)/宮木 あや子
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【その岬には資産家の娘だけが入れる全寮制の女子大があった。
衣服と食べ物は好きなだけ手に入るが、情報と自由は与えられない。
そんな陸の孤島で暮らす4人の少女――高校で同性と心中未遂を起こした矢咲、母親に捨てられた小津、妾腹の子である三島、母親のいない都岡。
孤独な魂は互いに惹かれあい、嫉妬と執着がそれぞれの運命を狂わせてゆく。
胸苦しいほど切なく繊細な、少女たちの物語。 】

■ 感想とか色々

つまり、あれだろ、「なにも変わらなかった」んじゃないかこれ

「ラプンツェルの塔」に住む小津、矢吹、三島、都岡
小津は中国系アメリカ人の母を持つ元モデル
矢吹は同性と心中し損ねた少年のような少女
三島は妾腹の可愛らしい女の子
都岡は三島の奴隷でピアノが上手い

「自分が何者であるか」の話かと思ったら「欲しいものを欲しがる」話でもあったのか
地味に小津中心だった気がするぞこの話
逃げたのは矢吹じゃなく小津だったしなあ

小津は偶々新しく来た矢吹を出迎えて
三島と都岡は高校の頃から一緒にいる
ラプンツェルの塔は寮の名前。
「森」もあったのだけど、森の奥にはお菓子の家でもあるのかな
森の奥にあるものってあとは湖(オノ)しか思い浮かばない

遠く離れた好きな人の死を知りたい? という三島の質問に、都岡が「知りたい」と即答したので、私の中であの子は「強い子」です
しかも、小津の死を(最初に)知るのが三島っていうのもなあ。矢吹も因果だこと。噂が流れて伝わるのか。伝わらないでいてくれたら嬉しいんだけど。
だってそうしたら、密やかに残したあの手紙を、ずっと信じていられるでしょう
小津が会いに来ない理由を、あのとき追いかけなかった自分のせいにできるでしょう
矢吹が心中未遂を「過ち」としか思えなかったのが哀れ。
未遂こそ過ちだろ、死にたかったときに死ねず、死のうとした人はひとりで死んじゃうんだから。(旧姓黒川さくらが自殺かどうかは知らんけど)

高校卒業。旧姓。使われた。
でなんとなく解った自分が嫌なんだが、汚らしいというよりは嘲笑と一緒に皮肉って使ってそう

あと、p51で、小津の母親が中国人であることを知ると、中国に行ったことのある人は中国の素晴らしさを語りあおうとし、反中である人は小津に怒りをぶつけ、祖国に帰りたくても帰れない在日韓国人は祖国を捨てて日本人の子を産んだ小津の母を罵った、というようにあったんだが、一々めんどくせえんだよ
この「小津に怒りをぶつける反中である人」も、中国人に道聞かれたらできる限りはするんじゃね? と思ってる程度には、私は「日本人」を信用しているし、中国に直接行かなくとも中国の(かつての)素晴らしさは知ってるっつーの。最後は部外者。
小津の母は、小津父と会った時点ではアメリカにいる華僑(のようなもの)で、小津を産んだあと日本国籍を取るかと思えばアメリカに行きアメリカ国籍を取得したので、正確に言うと現在は(中国系)アメリカ人、小津を産んだ時点では中国国籍か

小津は いっそ世界中の人が、同じ目の色、肌の色、髪の色を持ち、国も国籍もなく、全てが海でつながっているだけの「隣の町」になってしまえば、そして名前など全てアルファベットと数字の管理番号になってしまえば、人間の括りなんてなくなるのに。p64 で言ってた。
日本語がないなんて信じらんない


都岡は小津にかつてのモデルの姿を見て、矢吹は三島にかつての恋人をの姿を見る
それにしても最後矢吹は出て行くし、都岡はその先のことは解らなくても三島と一緒にいる
小津の部屋には彼女が作った空が山ほど張ってあったのに、落ちたのが海っていうのがなんかいいよね
本音を言えば、もっと、なんていうか、むなしくてよかった
彼女たちは自分たちの人生を残りかすか詰まらないものとしか思ってなさそうで、それはそれでよいのだけど、だったら最後に三島と都岡の4年間限定の希望、は、いらなかった
あの2人は矢吹と小津が最初だけそうだったようにただ寄り添うことは出来なさそう


なにも変わらなかった、ていうか、ただ単に執行猶予が付いたのかも
矢吹が死ぬまで小津の死を知らなければ勝ちだと思う
いちおー百合みたいだった、そうかこれも百合に入るのか、ああでも一応ベッドシーンがあったからか

デザインは成見紀子さん、
イラストレーションは鳩山郁子さん