チューバはうたう―mit Tuba/瀬川 深
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【第23回太宰治賞受賞作、いよいよ単行本で登場!
チューバ。でかい、重い、音がやたらと低い。
この世に楽器はあまたあるのに、なんで私はこんなものを吹いているんだろう──。
チューバのごとくでかく、不器用で無愛想な女子が、いつしかこの楽器の音に魅せられ、音楽にのめりこんでいく。
そして訪れる奇跡の夜!
音楽のようにうねる文体が選考委員からも絶賛された受賞作に、渾身の書き下ろし作品「飛天の瞳」「百万の星の孤独」を併せて収録。】

へー。

■ 感想とか色々~

チューバはうたう
表題作。表紙の人がチューバを吹くお話。チューバを吹くことについてのお話。
アマチュアとプロ、様式美と由来、型どおりの演奏に楽器に固定観念。
触れたことから始まり、こだわりを語り、付き合いを並べ、で、吹く。吹くったら吹く。
笑わないという意味での無愛想ではないかな。
11ページの どういうわけかは知らないが、これほどに女が集まると、どういう母集団であっても必ず、派閥、上下関係、誹謗、中傷、密告、裏切り、仲間外れ、そういった悪徳が実にほどよく醸成されるのであって の 密告 が好き(笑) ああ、密告ねえ、と思わず。上手。
一瞬 あれ瀬川さんて女性? と思った。
女という性別を持った人間を悪く言うのは女だけとは限らないけど。ある種の遠慮はあるかな、と。
まあ粘っこさとかねちっこさまでは書いてなかったから解らない。
繰り返されるようなくどさはあるけどベタベタしてないのがよかった。
どこまで続くんだ? と思ったー(笑) 普段改行することが多い本を読んでいるから余計、「ぎっしり」に うわぁ! と思ったけどじっくり追えたのは嬉しかった!
ライブでの自由さに思わず 恐ろしい! と思ったりも。そこで渡しちゃうの通じちゃうの続けちゃうの! なんなんだこの人達! 広すぎだろ! ぎゃー! と思ってたらちょっと滲んだ。
耽溺という言葉を使いまくり。
つくづくこの人に恋人さんがいるのが不思議だった。(魅力がない、ではなく、人といること、そのものが)

飛天の瞳
“激動の時代”を生き抜いたおじいちゃんの足跡と色んな国々を回るお孫さん(お兄さん)のお話。
といってもおじいさんは老人ホームだし話すのもやっとだし、お兄さんは国を回りながら思い出したりなぞったり新しく知ったり。
繋がっていくことそのものもおじいさんの歴史が証明されたこと(証拠候補と出会っためぐり合わせ)も、まあ嫌いではないし好きなほうだと思うけど、三分の一しか生きていない、がもう……すごく……好きで……。
ホテルでの演奏もよかったけどね! 四枚羽の分てお父さん(笑) 素敵なご夫婦でした。

百万の星の孤独
小さい箱の中にある機械で星空を作りにきたお兄さんと、町の人達のお話。
優等生の少女、サッカー好きの少年、家出してきた平成生まれに、養蜂家のおじちゃん。
日記風に出てくる子やブログを書いている青年、うだつの上がらない三人組、痴呆の進むおじいちゃん。
視点と流れが変わっても変わらない核は「星空」。ストイックだなあ。
なんですか昭和生まれ。と言いたくて仕方なかった……いや別にいいんだけど(笑)
十五年を「たった」とは言えないなあ、とも思ったけどねー。
タイトル連想で谷川俊太郎さんの「二十億光年の孤独」を思い出した。

カバー装画 衿沢世衣子さん、装丁 間村俊一さん

他のお話も読みたいな。書かないかな。出ないかな! 
音楽の知識なんてほとんどないんだけどそれでもよかった