鬼の跫音/道尾 秀介
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【心の中に生まれた鬼が、私を追いかけてくる。――もう絶対に逃げ切れないところまで。
一篇ごとに繰り返される驚愕、そして震撼。
ミステリと文芸の壁を軽々と越えた期待の俊英・道尾秀介、初の短篇集にして最高傑作。】
■ 全体的な感想
お話は6つ。ホラー短編集だそうで。1つ目で出てきた登場人物が3つ目で脇役に… というようなリンクはありませんでしたが、「Sくん」はどれにでも出てきました。
Sくんて誰ぞや。とは思ったものの自殺してたり殺されてたり目を失ってたり色々な状態になっています。
秀介のSかなー と思いました。そもそも理由と答えがあるのかどうかすら知らないが、もしそうだったら大分悪趣味で良いと思う。
お気に入りはタイトル赤文字。
(面白いか詰まらないかで聞かれれば)面白かったし、他の作品も読むけど、やっぱり“短編集にしては”がついてしまうかな。
罠(引っ掛ける所)が少ない。頭割られてたり眼球取ったりと言った惨さは面白かったし、けらけら笑いながら「どうしよーもねーなあ」と言えるようなお話だったかと。
あとわたし、レイプを読むのは無理です。(生々しい最中がなかっただけまだ読めたが、その手の計画を聞くだけで気分が落ちる)
まだ殺人の方が平気。
■ 以下 各話語り
■ 鈴虫
完全犯罪だと思った。誰にも見られていないと。
妻となった大学時代の友人、杏子。
彼女が当時付き合っていた恋人の死体を埋めたのは11年前のこと。
そのとき見ていた唯一は鈴虫で、息子が飼っていたのも鈴虫。
交尾を観察するようにたたずむもう一匹の雄の鈴虫。まるでかつての自分のように。
好きな女性の最中の声を聞くのも趣味が悪いと思う(笑)
ああ、カマキリも食べるもんねえ。と思いました。鈴虫も食べるんだ。
頭に石を叩きつけた回数が具体的だったのがよかった。
反転したのもそうだけど、まあ、これも心底愛していたというのかな。
■ 犭(ケモノ)
刑務所作業製品。
折れた椅子の足に書かれていたのはフルネームと家族を書いた言葉。
優秀な祖父母と両親と妹。ため息ひとつで処理されてしまう自分。
運命を感じて昔の事件を調べた男の子の成長物語? かと思ったら最後落とされた。
妹の盛大に割れた頭なんて、もうどうしようもない。が大好き!!
血は既に乾ききっている、や、ぴくりとも動かない、じゃなくて、「もうどうしようもない」、「割れた頭なんて、もうどうしようもない」……!!と噛み締めました。笑い出すくらい楽しかった。
近親相姦――ではないな、血ではなく戸籍のつながりの場合、問われるのは倫理観と常識かな。
いやあ…最後も含めて、好きだなあ。
家族と話すべき、向き合うべき、という教訓よりも、自分の判断力や行動力のまま行ければまだ良かったのにねー。
■ よいぎつね
穴はあるけど、ぐるぐる回る所あたりは面白かった。
お祭りの日に 女の子をひとり連れ込んで陵辱する。
「なんだか怖い」と思わせるSとそれに逆らえない周りと僕。
追いかけていった女の子。意気地がないままで良かったのになあ……。蛮勇と呼ぶのも失礼だ。
あー、「ケモノ」で女性が男性無理やりしてるから、逆にしたのかな? とも思った。
まあ最後死んでるからいっかなーとか思ったわたしもどうかと思う。
■ 箱詰めの文字
推理小説作家Sと、そのSの家に泥棒に入ったと謝りに来た青年の話。
「気づかれてい、いらっしゃらなかったんですか?」
「僕が? 何に?」
「ちょ、貯金箱が消えていること」
「え、嘘」
が好き。吹いた。笑った。
二転三転するのは他の話でもあるけど、じゃあなんで青年がSの言い分を信じて墓まで案内したんだろう、と思っても解らなかった。
わたしはむしろあれでなんかひとつ話書くと思った(笑)
間の抜けた人達だったけどその間の抜け具合がよかった…かな。
■ 冬の鬼
わー! でもありです可愛いです可愛いです、ありがとう、可愛かった!
火事にあった女性と部屋いっぱいの写真を撮り続けた男性、S。
「目を入れた達磨を焼いた」。文字通り、と言った時に思い浮かべる二つのこと。
日付をさかのぼるお話でした。表題の鬼の跫音はここから。
ぜひともお幸せに!(死ななきゃなにしてもいいんだな、としみじみ思ったお話でした。)
■ 悪意の顔
夫と赤ん坊がキャンバスに入り込んでしまったと言う女性と クラスメートから“攻撃”され続ける主人公と 接着剤やカッターを使って攻撃し続けるSくん。
最後の一行のよさにお気に入りにするかどうか迷った。
「Sくん」がどうして攻撃するようになったのかを主人公に解らせないまま終わらせたのは作者さんの悪意かな? と思った。そう思うわたしにこそ嘲りに似た悪意はあるし、P188の後ろから3行目だけが「原因」になるとは思わんが。(答えのひとつではあると思うが別解あり)
カッターいいよカッター。勿論、接着剤もエグくてよかったけど、カッターのあの偶然性(指と指の間)というのがいい。
装画は下田ひかりさん!
凄い……いい……なあ……。(美術の知識は無知と呼ぶのも憚られるくらい無知ですが)双方向のグラデーションといえばいいのかな。斑な色使い。
ということでサイトお邪魔してきました。……あれ。
これはもしかして装丁・ブックデザインの高柳雅人さんのお力かしら。
パッと見も「お」と思いました。ゆっくり、いい。