ジハード〈3〉氷雪燃え立つアスカロン (集英社文庫)/定金 伸治¥540Amazon.co.jp

【十字軍支配下のアッカからラスカリスとルイセによって救出されたヴァレリー。
だが、その傷も癒えぬうちに、裏切り者という疑いを晴らし、イスラム軍の信頼を回復するために、次なる主戦場アスカロンをめざす。
戦う相手は、リチャード王から首将として派遣された英雄アイヴァンホー。
果たしてヴァレリーに勝機はあるのか? そしてついに、戦いの火蓋は切って落とされた。
傑作シリーズ第三弾。 】

あら戦争ばっかりで。

■ 感想とか色々~

ウィルフレッド・アイヴァンホー vs アル=アーディル。
逃げ出したはいいものの、このまま戻っては疑われるだけだとアスカロンを目指す「公正」のお兄さんと、シャーウッドの森の義賊、ロビン・ロクスリーの「友」ウィルフレッドさんとの一戦。
暗愚の皇太子アル=アダフル、ロビンの友であるリトル=ジョンやア=デイルは初登場。
ルイセの出番はあったけどラスカリスはアーディル視点からでしか動きがなかったからちょとしょぼん。

しかしなによりもエルシードの出番が少なかった――――!
のが不満といえば不満ですが、皇太子からもらった白い馬にエルシードの名前をつける件は素晴らしいと思う。わたし絶対嫌だ。(賛辞)
出てくるは出てくるんですが「あれ? もしかしてこのまま出ないで終わる?」と思うくらい後半でした。
いやあでもやっぱり姫さんがいると会話のテンション上がる上がるっ。
会話文の勢いだけでいけるなあと思いながら。
ルイセも怒ってたけど、やっぱりその場その場な気がする。本家は凄かった。(馬と会話できるのも凄いがなっ)

戦争中の策は雨か日食か雷か……最後の雷は(わたし自身が)空から解るものなのかどうか解らないので除外しました。
毎度思うが一文一文の情報量が多い。
裏づけされたものだとか名前がさっと出て来る所とかにワクワクする。

ベレンガリアの姉さんがウィルフレッドと一緒にちょこちょこ出てきます。
この姉さんのぼーっとした所が好き。
「才あるものはなにかが欠けている」の典型だが、はっきりとした才がなくたってどっかしらでこぼこだろ。円はない。

リチャードは今回妹思いの一面と今まで以上の政治嫌いを見せただけで終わったかな。
エルシードとリチャードは同じ形をしているかもしれないが魅力が違う。
リチャードはわたしにとってかっちりとした「王様」だ。
戦争が大好きで政治が嫌いで王様やってる王様。
姫さんは男勝りで感情の起伏が激しくて男が嫌いで女が嫌いでそのくせ人は信じてしまう理不尽極まりない人。
「アーディルの裏切り」という報せを信じたのは、もしかしたら甘さと願望を抜いた「根拠」がなかったからかもと思った。なんでだろ。

アリエノールの幸せかどうかは知らんが 愛した人から愛されないのは良いのかね、と思いました。
特に思い入れもないしどうでも良いんだけど、牙を収めた獅子の妹って詰まらなくなりそうでちょと嫌。
噛み付いてきそうな女の子のが好き。

アーディルさんは足を引きずってるくらいで今回怪我なかったよー!
射られそうになってるけどなかったよー! アル=カーミルお疲れー! 
暗殺者組織を引っ張るとは思わなかった。
「知識を応用できる人間」は勿論好きだけど、「騙す気がなく騙している人間」ってとことん性質悪ぃ(笑) と思いました。
姫さんや息子さんや養女さんや友人はアーディルをアーディルとしてするけど、敵方さんは戦争を有利に進めるためにアーディルが「どのような人間であるか」(=どういう風に策を立てるか、軍を動かすか)を知らなくちゃいけない。
ので、アーディル自身を楽しめない。……のかな。
新しい情報だったりお姉さんの最期だったり、1巻の「家族」に通じる部分。あ、お兄さんは2巻で出てきたか。
「嫉妬」も へえ と思ったけど 「未分化」にも ああ と頷いた。
最初は誰だって男も女もない所にいたね。


面白かったのはロビンの「友」の定義というか「仲間」の意味する所だとか。一芸に秀でている者、といえば聞こえはあんまり良くないんだけど、どこかが突出している人間が好きなのか。
わたしもそりゃ好きは好きだけど、ロビンの好きとは違いそうだな、と。
デイルに送った一言はカッコ良かったですとも。あれだけで惚れそうだ。
「暗殺者とはいえ、女だ」の一文に頭の中でなにかがぐっるぐるん回りました(笑) わたしはどれだけそこに拘るのかと。

最後は久々にルイセとラスカリスとエルシードとアーディルが揃ったーーー! ときゃっきゃしてました。
シャラザードとアル=カーミルもいれば素敵だね! タキ兄さんも久しぶりに登場しましたがやったことがエルを二発殴って説教って(笑) 婚約設定どこ行った。

イラスト:高橋常政さん、デザイン:岡邦彦さん


ジハード〈2〉こぼれゆく者のヤーファ (集英社文庫)/定金 伸治¥580Amazon.co.jp
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