残される者たちへ/小路 幸也
¥1,575Amazon.co.jp

【この世界は、まだこうして美しいままにある。

デザイン事務所を経営する川方準一のもとに、同窓会の通知が届く。
準一の通った小学校の子供たちは、ほぼ全員が<方葉野団地>の子供だった。
準一は、親友だったという押田明人に会場で声をかけられるが、
彼のことを何も思い出せない。他の人間はすべて覚えているのに。
悩む準一は、団地の幼なじみで精神科医の藤間美香に相談する。
美香は、<方葉野団地>に住む中学生、芳野みつきの診療も行っていた。
みつきは、自分を庇って死んだ母親の記憶を見るようになったという。
記憶のずれと団地の存在に関係があると見た準一と美香は、団地の探索に乗り出した。
二人は<方葉野団地>で、想像もしなかった“のこされるもの”に遭遇する…。 】


人のように、人以上に、慈しんでいたもの達。

● 登場人物

川方 準一
東京でデザイナーとして働く30代後半。
覚えていない「親友との思い出」に悪寒を感じる。
幼い頃に父親が行方不明になった。

藤間 未香
二つ下の幼馴染。現「医療関係」にお勤めの女性。
川方さんが「奇妙な記憶」について話せる唯一の人。

押田 明人
物語の核であり、また仕掛け人でもあり、全てが見えていた人でもあり、<彼ら>と人間との間の人。
長方形を組み合わせた奇妙なアザ。今でも団地に住んでいるお兄さん。

芳野 みつき
交通事故で母を亡くした女の子。
同時に祖父と祖母も失い、母に抱かれて奇跡的に生き延びた。
あるはずのない母親の記憶が時々ふらりとやって来る。
藤間さんとおしゃべりをする女の子で、今現在団地に住んでいる。

■ 感想とか色々~

上記4人の視点が最初ころころ変わるのでビックリしました(笑)
あれ?と思った所で戻ってもいいけど(戻った)、無理矢理読んじゃっても平気かな。
読み終わってから冒頭を読むと、ああ、あなたもそこにいたのね、と思いました。
押田明人さんは勿論重要なのだけど、ある意味一番物語を振り回してくれた人でもあったので、川方さんと藤間さんを覚えていれば大丈夫かなと。
藤間未香ってかっちり決まりすぎてて「漫画みたいな名前…」と思った。

ミステリーではないですよね。
謎解きに人知の及ばないものがあるって、推理のときに「なんだよそれ!」と思うんだけど。大どんでん返しのしすぎというか。
曖昧なもの。確定せず定義せず、便宜上の名前と能力とイメージはつけても、<彼ら>を形容する言葉はここにはない。
ある意味では記憶探し、長年続いていた営みの最期、慈しむことのできる存在。昔夢見たヒーロー、違う世界からの侵略者、空想のチャンバラ。

川方さんと藤間さんのさり気無いやり取りでもごろごろ転がったんだけど
それ以上に、ああいいなあ、この人凄い好きだなあ、と思ったのは「おはよう」と「行って来ます」の応酬。朝のワンシーン。
団地からわらわらと出てくる子供達の、出勤するお父さん達の、ゴミを捨てに行くお母さん達の、団地だからこその共同体意識、家族意識。
子供を大切にして欲しいのは、可能性とか未来とか次代とか、そういう小難しいことじゃなくて。
義務でも強制でもなくて でも自然とそうなってくれたらいいなあって思う。
たくさん抱きしめてたくさん愛してたくさん叱って、もういいよ、勘弁してよって、笑っちゃうくらいの。
306ページの所は理由も意味もなく涙が出てきた。

「お父さんを殺した記憶」云々がさらりと流されちゃってるのは残念でした。
あと最後も綺麗すぎるかな。いやまあ全体で言えば好きなんだけど。
「東京バンドワゴン」よりかは「HEART BEAT」、「空を見上げる古い歌を口ずさむ」、「そこへ届くのは僕たちの声」。
ミステリっぽいんだけどミステリじゃない。
この感想は2割から3割引いてくれると丁度いいかなと思います。
小路さん好きー。

装丁は田島照久さん。



残される者たちへ (小学館文庫)/小路 幸也
¥690Amazon.co.jp