漆黒の王子/初野 晴
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【暴力と幻想。絡み合う二つの世界の謎に迫る本格ミステリ!
武闘派暴力団をターゲットにする謎の連続殺人犯『ガネーシャ』。
一方、歓楽街の暗渠に住み着く七人の浮浪者たち。
ある日怪我をした『わたし』は、『王子』と名乗る浮浪児に助けられ、暗渠へと踏み込んでゆくが――。】


面白かった。
ミステリってよりは折り紙の騙し舟。

● 登場人物

<上側の世界>(地上/暴力団側)
紺野
藍原組組長代行。
身内にも外側にも敵の多い人。曰く、やりすぎた人。
癖はあんまりなかった。ゆっくりと死んでいくみたいな。
乾いている。

秋庭
大体紺野の傍にいる人。弟分。
崇拝している気はありましたが。どうだろう。
この人視点が多いかも。

水城
潰れた組の組長息子。
姓は母親を名乗っている。現在は藍原組に。
死臭に耐えられる人。多分 まともな感覚を持っている人。

高遠
車椅子の右腕。紺野の相棒。
吃音、というんでしたっけ。どもるのが多かった。
と思えば滑らかに喋っていたり。境目はどこだ。

千鶴
老人の排泄物を顔色ひとつ変えず拭き取れる人。
振込みの口座を変えていたりえげつなさもある一方で紺野に信用されている。
死臭も平気。


<下側の世界>(地下側/職業が名前)
ガネーシャ
ヒナを抱いて気絶していた女性。
それまでの記憶がなく 手探り状態で地下世界を動き回る。

地下の住人から最も信頼されている病身の≪王子≫
お喋りなおじいさん≪時計師≫
迷いやすい地下に矢印を描いてくれた≪画家≫
死体を隠した≪墓掘り≫
あとを付けていた人かな、≪坑夫≫
指を失った≪楽器職人≫
汚れを落とし物を拾う≪ブラシ職人≫


■ 感想とか色々~

眠ると死ぬ、という恐怖。
賦活剤は知らないからともかくクスリはアウトだろ と思ったら意外と死亡率が高くてびっくりしました。
基本的にたくさんの人間が死ぬのってあんまり良い気分じゃなくて、なんていうのかな、粗雑な感じや盛り上げるためだけに殺しているように思うのが多いのですが、地の文のおかげでほとんど気にならなかったです。
むしろこの死亡率はわたしかなり好きかもしれない。
中途半端に都合よく生き延びるよりも。

基本は紺野と高遠、水城と秋庭、それに千鶴。
地下世界は時計師と王子とキーマンだった墓掘り。
ガネーシャはどちらの世界でも重要人物。

風土病と病原菌。
直接肌に触れられなければ感染することのない病。
紺野と高遠が虐げてきた人々。利用しヒ素を持った浮浪者。
手に入れたもの。杜撰すぎる管理。
人類を殺すことの出来る二つの兵器。


登場人物多くて混乱した所もあったけど基本的には大丈夫でした。
どちらがどちら? とは思ったものの。上と下が混ざるとき。
冒頭の虐めがそのまま紺野と高遠なら、皮肉なことに彼らはあのとき自分達を虐げた人間と一緒になっている。
「復讐」はどちらもでしたね、誰が生き延びてもよかったんだけど。
渦中でありながら組以外では当事者でない人。
秋庭が意外とさっくり死んじゃってたり、家族の情だったり、留学生相手の狡猾なやり口だったり。
「これもまたひとつの物語」のように どこかでまた続いていく感じ。
最後が上手いっていいなあ。こういう暗さは好き。

文庫版が出たのでぺたり。09年9月27日追記。
単行本と真逆だねえ。

漆黒の王子 (角川文庫)/初野 晴
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