覇者と覇者 歓喜、慙愧、紙吹雪/打海 文三
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【戦争孤児が見る夢を、佐々木海人も見る。
小さな家を建て、消息不明の母を捜し出して、
妹と弟を呼びよせて4人で慎ましく暮らすという夢を。
だが、ふたたび戦争の季節がおとずれる! 急逝した著者が遺した希望と勇気の物語。】

戦争によって戦争は終わるのか


● 登場人物

常陸軍孤児部隊司令官、佐々木海人。
弟の隆と妹の恵、恋人の竹内里里菜。
首都圏駐屯孤児舞台司令官(海人の戦友) 葉郎
幹部のエンクルマ、池東仁、ボリス。
常陸軍司令官、白川如月。
同 外国人部隊司令官、イリイチ。


「お前が罪を犯すなら、わたしも罪を犯そう」
女の子だけのグループ、パンプキンガールズのボス、月田椿子。
突撃隊隊長アイコ、幹部の三千花、死体屋、万里。

ロシアマフィアのボス、ファン。
歌手で海人の家庭教師、雅宇哩。
行方不明の母に似ている小燕。


■ 感 想

キャラ語り中心。

今までと同じように前半は海人視点、後半は椿子視点。
わたしが彼らの戦争を愚かだと嗤えなかった1番の理由は、
海人が泣き虫だったからかもしれません。
殺して、撃って、命令して、兵員を補充して、同じようにセックスをして、
それで、その延長線上に泣くんだよなあ。
味方が死んだときに。大声で。何回も。
慣れることを知らない、目の前の感情に素直な子供のように。
それは 違う理由でこちらが涙ぐむくらい羨ましくて 安心する。
どれだけ人を殺しても自分を正当化せず 最初の目標を見失わない。
だから多分わたしは海人がすごーく好き。男も女も抜きで。
文の中に増えていく漢字や 会話の中にあるひらがなに愛着を感じる。

(わたしにとっては)同じように、海人の恋人、竹内里里菜は最後まで嫌いだったなー。
いえ、P99の「報復しなくてよかったって、レジナルドが心から思える日がくるといいね」だけは好きですが、それ以外だと「なに言ってんだこの人…」が多かったです。
結婚云々はともかくとして。
竹内さんは戦争の被害者ではあるけれど加害者ではないからかなあ。
海人視点で話を読んでいると、傷口に塩を塗っている感じがしました。

終戦へ向けて――統一へ向けて動き出したのはいいものの
多くの反発と差別を内に抱えた常陸軍とアメリカ政府。
女の司令官に、孤児と外国人の部隊。
内乱に関与せず静観していたお綺麗な軍隊。と表記する時点で悪意があるんでしょう。
功労者は誰? 受け取らないからこそ与えたくなる。
イリイチさんが本人出てこないのにどんどん泥沼行っている…!
そういう覚悟を決めているからこそ好きだけど、その覚悟がまた悲しい。

一時紙面から姿を消していたファンのおじちゃんがたくさん出ていました!
懐かしい人々にも会えたのは嬉しかったあ!
まさかまたヴァイオリンの女の子が出てくるとは。
隊長や健二も出てきたし、恵と隆も久しぶりで…!!
とりあえず兄弟仲がいいのはそれだけで救われる。
あづみとほづみの叫び。お姉ちゃん大好き!


女性陣のひとり 白川如月さんは 最期まで好きでした。
いやあ……どうしよう、なんか……どうしようもないくらい好きかもしれない。
あそこでファンのおじちゃんが惜しんで カイトが大泣きしていたそうだから 余計に。
ちゃんと生野菜を買っているのが凄くいい。
カッコいいや素敵という褒め言葉を使って当てはめると彼女の持っているものが壊れてしまいそう。


話自体は椿子のほうでぷっつり途切れています。未完。
カイトや椿子やもしかしたら恵の、隆の、イリイチさんの、たくさんの物語がそれぞれにあって それを読めないことだけが ただ残念です。
残念 というか……あー、いや、難しいことはよく解んないんだけど。
もっと読みたかったな、というのが1番。
表紙を開いての登場人物一覧で「懐かしい!」と泣きたくなりました。
わたしの中でこの人達はずっと戦争をしていて 殺して傷付いて時々泣いて たまぁに笑って。
そこで止まっちゃう。終わらない。
終わらないまま続いていくのかな。


ありがとうございます、と、お疲れ様でした。
おやすみなさい よい夢を。