水の迷宮 (光文社文庫 い 35-3)/石持 浅海
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【夢を実現に導くために。
事件の謎を解く鍵は、三年前に片山が見た夢。

三年前、不慮の死を遂げた片山の命日に事件は起きた。
首都圏の人気スポット・羽田国際環境水族館に届いた一通のメール。
そして、展示生物を狙った攻撃が始まった。姿なき犯人の意図は何か?
自衛策を講じる職員たちの努力を嘲笑うかのように、殺人事件が起きた!
――すべての謎が解き明かされたとき、胸を打つ感動があなたを襲う。】

■水族館で起こる環境破壊
専門の世界はやっぱり面白いというのが第一印象。
旭山動物園をテレビで見たときもそうでしたが、今回舞台となる「水族館」でも熱心に作られた、お客さんへの見せるための工夫や、それぞれのテーマ性。
しかも「羽田国際環境水族館」の名前の通り「国際」的で、奔走する職員さんの脇で描写されるそれらに凄いワクワクしました。
それを利用する脅迫犯のメールもよく練りこまれ出来ている。


視点となるのは古賀さん、
探偵役兼部外者の深澤さん、
経理担当の寺尾美奈、
企画担当の小谷潤、
総務担当の坂入政志、
大島係長、
海獣担当の山口真美子(イルカショー)
同じくイルカショー担当の井内伸江、
エリートがえりの波多野館長。

共通してある「片山」の死。
繋ぎとめるように結ぶように胸に残る、最期まで水族館に尽くした人。

ちょっと人物の把握に手間取って(特に女性陣)しまいました。
悪い意味ではないんですが、深澤さんが「セリヌンティウスの舟」の王様に見えてしまう。
過程の説明を1から10までするので、例えば前提となる条件や前述したことであっても繰り返されるのは丁寧とも言えるし、分かりやすいともいえます。
探偵役――ともはっきり言えないのだけれど、「みんなが詰まったときの一言」役であるからにして、深澤さんには台詞が多い。

個人的にとても不思議だったのは、この作品で泣いたとき。
キリキリと糸が絞られて、ぷちんと切れるのではなくて。
それなりに緊張はしているが切れるには程遠いはずの糸が、じゃきんとハサミで切られるように、ぶわわっと泣いた所。泣くだろうなと構えていた所よりも不意打ちでも喰らったみたいに。
P367の5行目から6行目にかけてとP38210行目下から11行目。

■ラストのまとめ
拍子抜けしなかった、と言ったら嘘になるんですが、これはこれでいいんじゃないかな、と思います。
犯人逮捕が目的ではなかった。水族館を守るための奔走。蒸し返した事件。再出発した夢。
ホームズ役の深澤さんも(多分)ワトソン役の古賀さんも、水族館や片山さんに感情を傾けていたからな。
個人的には満足。
この作者、よっぽど海とかダイビングとか沖縄が好きなのかな。
今のところぶっちぎりでセリヌンティウスの舟がお気に入り。



セリヌンティウスの舟 (光文社文庫 い 35-4)/石持浅海
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