雷の季節の終わりに/恒川 光太郎
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【現世から隠れて存在する小さな町・穏で暮らす少年・賢也。
彼にはかつて一緒に暮らしていた姉がいた。しかし、姉はある年の雷の季節に行方不明になってしまう。
姉の失踪と同時に、賢也は「風わいわい」という物の怪に取り憑かれる。
風わいわいは姉を失った賢也を励ましてくれたが、穏では「風わいわい憑き」は忌み嫌われるため、賢也はその存在を隠し続けていた。
賢也の穏での生活は、突然に断ち切られる。ある秘密を知ってしまった賢也は、穏を追われる羽目になったのだ。
風わいわいと共に穏を出た賢也を待ち受けていたものは―――?
透明感あふれる筆致と、読者の魂をつかむ圧倒的な描写力。
『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞した恒川光太郎、待望の受賞第一作。 】


■ざっと登場人物
下界から来た少年・賢也
外から来たというだけで嫌われている彼に近付いたのは少年みたいな少女・穂高体格の良い遼雲
穂高の兄であるナギヒサ
彼の誕生日会で出逢ったヒナ、穏と下界をつなぐ唯一の場を守る闇番、取り締まる獅子野。
伝説とされる不死身の男、トバムネキ


■交互の視点
賢也を中心とした穏での視点と、私達の世界を舞台とする茜。
賢也は穏での爪弾きにあい、茜は継母との憎しみ合いです。
これは凄い。壮絶――というかもう、ドロドロ。
それでも根本的なところでは間違っていない茜は読んでいて安心できますが。
ここまで真っ直ぐの混じりっ気なしの憎悪と言うのも久し振りに読みました。
茜が知るのは同級生が絵に描き名付けた風霊鳥という存在。
空っぽの器に受け入れる。この世にないものを平然と呼び続ける茜は、その時点で既にもう穏に行くのが決まっていたのかも。

一方、追われる立場になってしまった賢也ですが、この子もある種安心して読んでいられます。
力に驕らず、大切な者を見失わない。変な繋がりになってしまう穂高とも、ちょっとずつ昔みたいに。
全てを知らない穂高は、また知っていることからも目を背けたがって、でも最後はしっかりと見つめなおします。
これがこの子の強さなんだよなぁ。ダテであのとき遼雲と一緒に、喧嘩をしたわけではない。



■冒頭から好き
「夜市」のときのあの意表を突かれた――どうにも陳腐になっていけない、しかしそうとしか言えない終わりも記憶に深く残りましたが、茜と賢也の繋がりも、鳥肌ものでした。
ああああああ! と口を手で押さえて唖然とする。
名探偵が鮮やかに事件の真相を明らかにして認識を引っくり返すみたいに、真逆の意味になる配置。
少しだけ空間がずれた穏を舞台に、人間界に紛れ込んだ穏の人間。
穂高、穂高、絶対にまた賢也の所に訪れてください。むしろ嫁に来てください…!


雷の音を聞くと、私は薄暗い気持ちになる。
雷が、ここではない遠い土地の薄暗い記憶を呼び覚ますからだ。
 その土地の名は穏という。
 穏は、海辺の漁村を中心とした一帯の名称で、町の人間は、海と畑からとれるものを基本として生計をたてていた。

 私の知る限り、穏は一般の書物にはその名を記されていないし、地図にも載っていない。


文庫版が出たのでぺたり。追記H22年7月29日

雷の季節の終わりに (角川ホラー文庫)/恒川 光太郎
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