倉吹 ともえ
沙漠の国の物語~水面に咲く花 (小学館ルルル文庫 く 1-3)

第1回小学館ライトノベル大賞 ルルル文庫部門 大賞受賞作第3弾!
沙漠に何年ぶりかの雨が降った。
みんな大はしゃぎで即席のシャワーを楽しんでいたが、雨はやがて鉄砲水に。
そんな折、川となった涸れ谷を一人の美少女が流れてきた。
青い瞳を持つファティと名乗るその少女は、とある部族の族長の娘で、嫁入りの旅の道中で大雨に遭い、足を滑らせ川に落ちたのだという。
ラビサとジゼットは、ファティを送り届ける旅に出るが、彼女の隠された秘密に翻弄されることに…!?】


相変わらず楽しめた3巻でした。
これはもう、是非4巻を! 出さなきゃ泣く! というくらいに期待しております。宜しくお願いします、LULULU文庫さん。

流れてきた自称花嫁をジゼットとラビサが街まで送ることになりますが、初っ端からもうジゼットがファティのことを疑いまくっています。
それでも、あくまで自分には関係のないことと当初は切り捨てていましたが、「それなりに腕が立ち、外の世界に慣れている者」として送り手の役目を担わされます。
そして、婚前前の女性と二人きりというのは外聞が悪く、ジゼットを諌められる者として、ラビサ。
自分だけでなくラビサも選ばれてしまったが故に、ファティの“怪しさ”を突き止めないといけないことになります。


もう、お互いを完膚なきまでに信用している二人が可愛くて仕方ない。
ジゼットがファティの怪しさを突き止めるのは、その“嘘”がラビサを傷付けるのが嫌だから。
事実、ラビサが殺されかけたことにより怒り、二人での食事のシーンなんて会話がないない。
それでも、ファティが事情を全て話したあとは(それまでが長い)、協力をします。
どっちにしろ、彼女を信用したいと思っているラビサは、ただ街まで送り届けただけでは納得しません。
個人的な解釈ですが、ジゼットは目の前に居る少女が黙秘していることで知らない事情により、自分の考え得ない事態が起き、ラビサが傷付くのが(身体的にも、精神的にも)嫌なだけだから、胡散臭い氏素性云々で忌避はしていなかった。
だから打ち明けてから窮地に陥ったときなどは「信用してもいいか」とまで言わせますし。


ラビサはジゼットとは正反対。髪の色にしても、ジンの能力にしても。
太陽の色と、ジンを操る力だけを持っている少女は、どこまでも真っ直ぐです。
3巻まで読んできましたが、引っ掛かるところは特になく、たまぁに「むー」と思ってしまう点も、私個人の問題ではないかと思います。
人を信じて疑わない子です。なんでもいい方向に解釈する子。好意を失わない子。
ジゼットはそれとは正反対で、必要があれば人も殺しますし、躊躇なく切り捨てます。ジンが見えるだけ。黒髪。


ゲストは裏切った姉と売られた弟。
待っていてね、迎えに行くから、と告げた言葉は疾うに消え失せて、罪悪感だけを残す。
水のジンを呼ぶ歌声を持っている少年は、芸奴隷として金持ちの元。
もう待っていないのかもしれない。恨んでいるのかもしれない。
私は、弟を裏切った私を許せない。
だからもう一度、鍵を探しに行こう。自分で自分を信じる為に。
何年も待たせた後の邂逅はほんの少しだったけど。
今度こそ、辿り着くから。離れないために。

毎回毎回物凄い災難な目に遭いつつも笑いと信頼を忘れないラビサに拍手。
剣を杖とかどれだけの障害物レースですが、ジゼットさん。
しかも、最後の最後でしっかり“ライバル”登場です。
負けるな青年! 年上の方がなにかと便利だよ!


そして、旅団のカヤルが 一 切 出てきません。影形すらない。
旅に出るかとも思いましたが、これもこれで十二分に満足です。
しかし、シムシムの存在が薄くなっているような……。
最後に、「若い者はやることが違うなぁ」で吹き出しました。
いやぁ、あの街の人達は大人も子供もとても素敵だ。