打海 文三
時には懺悔を

【佐竹は、数年前に退社した大手の探偵社アーバン・リサーチの元上司・寺西に頼まれ、探偵スクールのレディース一期生・中野聡子の代理教官をすることになる。
その日の実習は、やはりかつての同僚・米本の探偵事務所に盗聴器を仕掛けることだったが、事務所に忍ぶ込むと、そこには米本の死体が転がっていた。
佐竹は中野を助手に、米本が殺された謎を調査していくが、やがて過去に起きた障害児の誘拐事件の真相に迫っていくことになる…。
濃密な親子の絆を描く、感動の物語。大傑作ミステリー。】

メッセージを読み取る、ということに関しては、1番しやすかった。
メッセージ性というよりも人間ドラマが身近なもの、というのもあるけれど。
「愛と悔恨のカーニバル」での姉弟の恋愛はまだしも、翼の狂気は言葉で括れるものでも、括りたくもなかったから。
“親子の絆“を上手く読み取れたかどうかはこの際二の次にして、
佐竹の同僚・米本の死から始まる「探偵殺し」の事件を調べて行く中で、
助手である中野と娘の関係、佐竹と妻、息子との関係を効かせていたから、
浮き彫りになっていく障害児を誘拐した人と、子供を誘拐された父母も読みやすくなってたし。

ただまぁ、“親子の絆”は、そんじょそこらの優しいものではない。
少なくとも、ある種一片通りの実子への情だとか、拗れた関係の解決だとか。
不幸中の幸い、としか言えないし、もし笑顔で解決ハッピーエンドを望むんだったら(冒頭から既に死人は出ているにしても)過去からやり直さなきゃいけないんだろうな。
米本の死因を調べるとき、直前まで彼が手がけていた案件を元に踏み込むのは人探し。
子供です。“障害のある”がつきます。

誘拐された障害児、生存を望まないかのような両親、
もう一度当時の事件を調べなおす刑事、実の娘と拗れてしまった中野。
子供への触れ方が解らない佐竹。

世に「探偵」を扱う作品は数多くあるけど、雰囲気的には警察に似てるのかな。
ウネ子さんの「パブロフ的悲哀」もそれを表していると思うし、
そもそも佐竹が米本の死因は近い将来の自分とするのも。
「誰かが死なないと、あたし達会えないのかしら」だとか。

個人的に好きだったのは「何ていうか――強制力?」(P59、後ろから4行目)。
学校、病院、監獄の通ずる所。
それをここで引っ張り出すのも強烈なあげつらいを気に入ったのも、今ウネ子さんが挙げたその場所のひとつに自分が居るから。
聞いておきながら言い切って、一切の補足をしない潔さが好き。
くは、と笑ってしまったのは、「男って、なんか人間が安っぽく出来てる感じ」(P113)。
勿論それを切り返す寺西の同意したあと「だが、女は陰険だ」にも拍手。
佐竹だったと思うんですが、「女は一度守りに入ったら堅い」というような表現もありました。


思わず涙が滲んだのは「重いですよ」の一言。
この一言に泣かされるとは思わなかった。
和解というよりは歩み寄りに近い一歩。
数字上の年月が実感として湧き上がる。

背負わせるのは簡単で、それは他人事だから。
推し量る荷は絶対に当事者より軽く、だからこそ気軽に言うけど。
障害のある子を育てること、育て続けること。
倫理観よりも一時の感情が勝って、勝った自分に後悔する自分が居る。
当事者ではないから言える言葉が、当事者ではないからこそ言ってはいけないのかもしれない。