雫井 脩介
クローズド・ノート
オーソドックスな物語なのに、これほど涙が溢れるとは。
告白しますと、最初の「日記」だけで泣きそうになりました。
中盤の、不登校になった子の母親と担任教師との手紙の遣り取りだけでも(本当にそれだけなのに)泣きました。
いいなあ、こんな先生居たら、勉強嫌いは変わらなくても授業はちゃんと受けるよ。
出来過ぎで完璧なような(茶目っ気がある所も含め)伊吹先生も、
恋愛が入ってきて悩むと人間くさくなったし。
彼女の遺した日記を、偶然読むことになった万年筆好きの香恵、
過去伊吹先生と関係があった画家の隆作、
香恵の友人であるはなの彼氏、鹿島。
これが現実の三角関係。
もうひとつ、伊吹と香恵と隆作、あったかもしれない――心に人が住めることを認めるのなら、現在進行形で続いているキレイな三角関係。
こういう恋愛小説って、大体の展開とオチ、決まってるんですよね。
誰かが死んでたり今から死んだり、それをどれだけ劇的に悲劇的に盛り上がらせるかで。
これは既に誰かが亡くなっている状態から始まってます。
そういう意味で、香恵の恋ははっきりと定まりません。
ってか隆作が解んない。鹿島もなんだあの理不尽男!
とキャラ語りをしたらキリがないので、個人的に好きなシーン。
・ 「寂しさに寂しさなりの色をつけたい」
伊吹がもう亡くなっていることを知り、日記の中の彼女の明るさと教師としての姿勢に憧れていた香恵は、誰かとこの喪失感を味わいたいと言います。
慟哭しながら言う叫びです。
無色透明で目の前にあっても気付けないような、そんなものじゃなくて、
痛みを伴いながら、それでも彼女を知る人と、知っていた人と一緒に放したい。
前後でもう、ボロボロです。
・ 亡くなった人と初対面での再会
まぁ、読めた。正直、誰の絵を描くかは読めたし、その通りだったんだけど。
いや、香恵、一々素敵だな天然娘。隆作が書いた絵の中の女性が伊吹なんです。
元となる写真こそ香恵を被写体に撮ってはいたけれど、絵の中では伊吹です。
「やっと会えた」って言うんです、香恵。まさに、日記で思い描いたとおりの彼女だと。
見えることのなかった彼女との、初めてにして二度目の再会です。
絵の人と再会、というのが、込み上げてきます。
シーンだけで言うならコンサートに隆作が花束を持ってきていたけど渡せなかったとか、
香恵の感想を聞いたときと、最後のお祝いの言葉で静かに泣く所、
万年筆を挟んでの遣り取りだとか最後のおっちょこちょいも。
隆作視点がなかったので、「伊吹との仲は結局なに?」なんですが。
聞くのも無粋って言うかねぇ、どっちでもいいやぁ、と思います。
絵に描いたことで、踏ん切りをつけてくれればいいと思います―――というかそれだけの恋情なら、生前からちゃんと愛してやれよ!
ドラマのクライマックスだけ見せられた、は興味深かった。
ワンシーンだけでもいいと思うけど、例えが新鮮。
夜中に読んで正解。
読み終わったのは明け方なんですが、いやぁもう泣いた泣いた、頭痛が出るくらい。
9月下旬に映画化されるそうなので、機会があれば見に行きたいです。
タイトルよりもペンネームが好きでした。