北森 鴻
孔雀狂想曲 (集英社文庫)


全体で言えば、どこかしら人間の醜い部分が描かれているにも関わらず、どうしてどうして最後は少しだけ浮上し、いい意味での余韻を残しつつ終わらせてくれていました。
人死こそあれ、愛着が生まれないような人達なので、唐突ではありますがなんとか平気でした。
日常系ミステリ、ちょっとだけ人死んでますがご愛嬌、ヘタレかと思ったらいい具合に腹黒口達者で筋を通す弟お兄さん(どっちだ)ありがとう!



舞台は雅蘭堂。
越名集治を店主に、その骨董点はひっそりと構えられています。

「ベトナム ジッポー・1967」

祖父である長坂健作が長いこと眺めていた骨董を、店主が眠っているからといってよからぬことをしようとした孫・安積から始まる昔語りは、ベトナム戦争。
あまりにも有名なライターの裏の歴史が非常に面白かったです。
全編にいえることですが、専門業ならではの裏話や慣習などはいつだってそそられるものがあります。


健作がまだ若かった頃、出向いたベトナム戦争で仲良くなったグエン・チャイ・クー。
ホーリー・グエンの愛称を持つ彼は戦地に置いても陽気であった。
単独取材をやらせてやる、とジャーナリストとして見逃せない一言に、
健作はミーティングに参加することになります。



「ジャンクカメラ・キッズ」

“目”を養わずに手広くやろうとすると失敗するのはどの商業だって同じですが、
骨董品に掛けてはそれに輪を掛けて、なのでしょう。
図らずも利用されてしまった雅蘭堂、最初訪れたのは保健の調査員だったのに、
次に来たのは――――警察官、だった。


「古九谷焼幻化」

いっぱい喰わされるお話。
仇敵(?)犬塚晋作は、集治の兄、収一を陥れようとした過去を持つ、黒い噂の耐えない男。
蔵開きと呼ばれる、骨董店によって手垢の付いていない旧家に眠る品を買い取りに出かけてます。
ヘタレ弟、横暴兄さん。電話だけのご登場で、しかもそれ以後出てこないというのはこれ如何に。
素敵に我侭、しかもやり手っぽいお人でした。


「孔雀狂想曲」

今回も警察沙汰。
石森・鳥飼は生活安全課などではなく、もっと怖ろしい課の人たちです。
出し抜けに利益を上げようとして、或いはそれにちゃちゃをいれるように入り込もうとした人たち。
骨董品の豆知識って面白い。嬉しいですねー、こういうの。


「キリコ・キリコ」

店主でもなくアルバイトの安積視点でもなく、今回は第三者の視点です。
瀬能樹里子さん。
叔母の大蔵瑠里子さんからの形見を引き取りに来て欲しい、という雅蘭堂のお手紙を手に、訪れます。
2人の会話の評価がいちいちそれっぽくてニヤけますねー(笑)
店主の年齢が明らかにされていないので不安ですが、まぁ師匠と弟子、という感じですかね。弟子、敬ってませんが。(本編に関係ありません)

下らないプライドを守る為に利用された人のお話です。
ちょっとトリック。死後謝るってのがいいなあ。偽善ぽくなくて。



「幻・風景」

今回も犬塚さん。「三鷹駅前墓色」という絵の対があるという。
それを探して欲しいという依頼です。
娘さんも出てきますが、いやはや犬塚さん、今回もやってくださいました。
凄いなぁ、贋作だらけじゃないですか。国会図書館行きたい………。


「根付け供養」

玉蓮の名前で始めた根付け供養は、時間ががかるわりに全く売れない。
数年前、雅蘭堂が薬箪笥の修復を頼んだときもやる気は全くなかったそうです。
英琳という偽名を使い、年代物にすることで、飛躍的に上がる値段に味をしめた玉蓮さん。
いい目を持ってるなぁ、店主。ちょっとカッコいいですよ。
しかもちゃんと頭を下げに行くんだから凄い……むしろあれひとつで900万も動くのか。
最後が爽やかでした。


「人形転生」

ちょっとどろどろミステリー。
焼死体で発見されていたり、孫の復讐だったり忙しないですが、
どちらかといえば競り落とされてしまった骨董品に執着する店主と、
その表情をいつもと違って怖いというアツミに拍手。


雅蘭堂シリーズの他作品も読んでみようと思います。
短編ばかりだったので、中篇くらいの、もう少し長いお話でも良いかなァと思いました。