三田 誠, 安田 均
龍は喰らう―精獣戦争


“名持ち”の妖魔・<知りて引き裂くもの>(ゲルシュエイク)の里を訪れた2人の若者が居た。
ひとりは玲瓏たる美貌を持ち、もうひとりはその者に仕える屈強な戦士。


前者は、稀ではあるがひとつの魂をふたつで共有するようになる双子のような生命体、精獣(ファルガ)を持っていた。
主人とともに死に、主人とともに生きる精獣が失われたとき、
頻繁に流魂病と呼ばれる魂が傷付いた状態になる。
これは「存在の欠如」に繋がり、主たる青年は体が半透明の状態。
話は、“絶望の黒龍ジーヴァ”、“ユガの獣”のうちの一柱に数えられる精獣をその身に宿したいと、封印された場所を訪れるところから。



導入部分でいきなり、屈強な戦士のザクレフが、
暗闇で龍と対峙しているウルズをひったすら待っているんです。
何事かと思いました。
そのあとティカというゲルシュエイクの従者である少女が出てきたり、
ウルズに精獣を宿されては困るという敵対組織が出てきたりで、
漸く話が繋がります。


ユガの獣、というのは精獣の王。
本来なら主を失った精獣は一緒に亡くなるものなんですが、例外が六柱。
神様に近いのかもしれません。

主人公側・ウルズが宿したのは≪絶望の黒龍ジーヴァ≫
敵対するウルズと“同一人物にして別人”のアズナートが宿すのは、
≪欲望の金獅子イルナーヅァ≫。
“覇王”といわれていますが、本来は欲望らしいです。

それでまだ登場せず紹介だけが

≪激怒の紅虎グノーシルグ≫

≪悲哀の青狼メイアース≫

≪慈愛の碧猫セラテム≫

≪無垢の白鳩エスレーン≫

イルナーヅァが1番強いらしく、それと反対を成すのがジーヴァです。
能力は、前者があらゆる精獣の支配。
後者が、あらゆる精獣の吸収。
それぞれが冠する感情が大きくなればなるほど精獣の持つ能力も増します。
そしてもうひとつ、黒龍を封印していた「魔法」。
その考え方がまた面白い。
唱えるのではなく「詠む」、魔法が掛かるのではなく、
「世界を錯覚させる」というもの。
設定が確りしているし謎となるものやキーマンもあるので一区切りついて「次」という感じはあるんですが、
能力が制限された中での精獣同士の戦闘は面白かったです。
ただ、最初からラスボス登場のようで、ザクレフが主人公だと思っていたので(だって最初はウルズ龍と戦っててほっとんど登場しないんです)、
そこら辺の活躍がなかったのはちょと残念。
二人に付いて来た、魔法を使うティカも、
実力不足っていうのもありますが、もうちょい活躍の場を!

キャラの書き込みが甘い、というか性格と性質の部分で、ゲルシュエイクの里でと随分違うというのはあって少し混乱しましたが、
意外とザクレフさんが熱かったです。そしてティカは強か。
もう少し乙女だと思ったら、ざっくり短髪にナイフでした。


絶望、激怒、慈愛、欲望、無垢あたりで物凄く惹かれました。
第一部、ページを捲ってすぐの≪忘却の予言の書≫の引用でノックアウト。
ちょこちょこ精神的・描写的にエグい所もありました。

拉致られたティカを馬車に乗せるのはザクレフという明確な表現が欲しかったです。
ティカはザクレフを好きで、ザクレフは「心配するのが当然」くらいの気持ちなんですけど。
続刊はもうちょいくっついててください。

そいでは(。・ω・)ノ゙

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