山高ければ、谷深し。 | 紺ガエルとの生活 ブログ版日々雑感 最後の空冷ポルシェとともに

山高ければ、谷深し。

サブプライム問題、ようやく政府が介入する姿勢を見せ始め。

すべてが解決されるかと言うと、かなり疑問だが。


ブッシュ大統領から発表されたのは、


1. FHA(連邦住宅局、低・中所得者向けの住宅ローンへの保証業務を行う)が、90日以上住宅ローンを延滞している持ち家居住者に、ローンの借り換えの際の信用保証を行う


2. 借り換えの際に住宅ローンの額が減少したり、差し押さえにあった場合に、これまで払ってきた住宅ローンの支払いが所得控除されていた分をペナルティとして納税しなければならなかったが、時限的にそのペナルティを解除


という2点。



先ほどの政策を、まともな日本語に訳すと。


1. 自分の持ち家を住宅ローン借りて買って、金利が上昇してローン返せなくなっている上に、低い金利のローンに借り換えもできない人に、その借り換えを促すために国が保証をつけてあげますよ。


ただし住宅バブルに便乗しようとして、投機的に持ち家以外の家を買って、金利が払えなくなったりしている人は、助けません。


2. 住宅ローン金利は所得控除(2軒目まで)なので、節税対策としてわざと高額のローン組んで所得控除行っていた人もいた。

そんな人が借り換えでローン減額したり、破綻して差し押さえられた場合、これまで所得控除となっていた分はきっちり耳揃えて返してもらうよ、ということになっていたのだが。

住宅価格が下落して、借り替えたときに借りられる額が減ったり、実際に破綻してしまうケースが普通の人でも増えてきたので。

破綻した上に、さらに税金がかかるというのは少し厳しすぎるので。

それを、今回は特別に減免してあげましょう。


ということ。


じゃあこれがどれぐらいの効果があるのか。

実はかなり限定的。

だから、某経済新聞の9月1日付朝刊トップ「サブプライム問題 米、政策を総動員」ってのは、結構大げさ。


どれぐらい限定的かと言うと。


今後2年で、金利リセット(=住宅ローン支払額が上昇)するローンは、およそ200万件。

今回のFHAの措置で借り換えが可能になる人は、2008年中に8万人。

だから、およそ8%ぐらいの人しか、直接的には政策変更の恩恵を受けられない。

(税金の免除のメリットは、そのほかの人にも及ぶので、その効果は大きいかもしれないが。)


また、現在FHAが保証対象としているローン額の上限は362,790ドルなので。

住宅価格が急上昇した、カリフォルニアや、フロリダや、ニューヨークでの借入額に対しては、小さすぎて。

住宅価格が下落したといっても、まだまだ高いので。

36万ドルでは全然足りない。


カリフォルニアとニューヨークで政策効果があまりない、ということは。

アメリカの人口の20%に政策効果が行き届かない、ということ。


だから、結構限定的なのだ。


でも市場は素直に好感。

それは何でか、というと。


これまで共和党は、サブプライム問題には何の対策もしていなかったので。

というか、Freddie MacやFannie Maeなどの住宅金融系政府機関が対応しようとすると、いちいちケチつけて邪魔してた。

というのも、これらの政府機関は、歴史的に民主党がコントロールしていたから。

大統領選前に、民主党に先に手柄を渡すわけには、いかないからね。

だから、市場はようやく共和党が重い腰を上げたか、と、ブッシュの発表を好感した、というわけだ。

実際の効果よりも、アナウンスメント効果が、大きかったということ。


それより、Fedのバーナンキ議長が実体経済への影響を懸念して、利下げを示唆したほうが大きい。

98年のLTCM危機も、2000年のITバブル崩壊のときも、事態が収束したのは利下げしてから。


今回は直近(8月7日、ECBの無制限資金供給の2日前)まで「インフレバイアス(=そのうち利上げするかもしれないから、気をつけてね)」といっていたFedだが。

流石にインフレバイアスと言っておきながら、突然利下げをするわけにもいかなかったので。

ただでさえ金融市場が取り付け騒ぎになって、その機能に対する信認が失われかかっていたときに。

グリーンスパンから代わったばっかりでそんなことしたら、「おいら良く分かってませんでした」と世界中に報告するようなものだし。

中央銀行がその信認を失ったりすれば、冗談抜きでグローバルメルトダウン。


だからワンステップ踏んで、一回、公定歩合を下げたが。

そんな金利、誰も使ってねーっての。

でもアナウンスメント効果はあった。


これで、利下げへの地ならし終了。

実は今のところ、米政策当局が行った施策は、市場への流動性供給以外は、アナウンスメントのみ。


実弾が出てきてから、それがどの程度効果のあるものか、冷静に判断すべき。

これで実弾も効かなかったりすると、背筋が凍るのだが。


9月半ばは、イベント盛りだくさん。

18日は、FOMC。(Fedの偉い人たちが、金利下げるか、いくら下げるか決める)

12日あたりから、米国の投資銀行の決算発表。(一部投資銀行でABSCDOに積極的だったところは、今回の件で莫大な含み損を抱えているのではといわれている)

あとはサブプライム周りでの議会の公聴会、など。


大体嫌なことは、昔から秋に起こるんだよな。

LTCMも、9月の連休前だったし。