サブプライムの格付け問題と合成の誤謬
90年代の日本では。
不良債権問題で銀行の資本が毀損し。
これ以上の資本の毀損を防ぐために、銀行は貸出基準を厳格化し、バランスシートを縮小。
その過程で、貸し剥がしが起こり。
潰れなくていい会社まで、資金繰りに行き詰って倒産した。
そして、貸し渋り・貸し剥がしのせいで。
システム全体が信用収縮を起こし、デフレになって。
さらに倒産が増え、自己資本が毀損し、という悪循環に突入。
すべての銀行が、自分の資本を守ろうとして。
貸出基準を過剰に厳格化したら。
市場のリスクマネーが枯渇し、より企業破綻が増えて、資本が毀損。
一言で言うと、合成の誤謬。
それぞれの主体がそれぞれ正しいと思う行動を取ると、全体として間違った方向に行く、という典型例。
これが、失われた10年だった。
同じことが、米国住宅市場で起きている。
過度の信用収縮で、本来であれば住宅ローンの借り換えができる人まで借り替えができなくなり。
破綻し、担保となっている住宅が売りに出され。
住宅価格が住宅供給の急増によってさらに下落。
それによって貸し出し基準がさらに厳格化され。
無限ループの、最初に戻る。
格付け機関が想定していた、サブプライムローンの最終累積損失率は6-8%程度。
延滞率、でなく最終累積損失率であることに注意。
しかし、これは通常時の想定であり。
現在のような、住宅市場での急激な信用収縮(上記の無限ループ)が発生することは、想定に置かず。
つまり、本来であれば住宅ローンが借り替えられるはずだった人が、借り換えられず破綻する、と言う極端な事態は、想定せず。
格付け会社は2006年の第三四半期にサブプライムローンABSの格付け基準を厳格化したが。
遅きに失した感は否めない。さらに、厳格化の幅が小さすぎた。
そのときには既に住宅価格の下落と、住宅ローン会社の貸し出し基準が厳格化されたと指摘されていて。
格付け基準の引き締めを、より早く、より厳格にしていれば(たら、ればを言いたくはないが)、ある程度は今の事態を防ぐことは出来たはず。
さらに。
借換え需要が急増しているこの時期に、住宅ローンの貸出基準が突然これまでになく厳格化されれば、更なる住宅価格下落、破綻増大が起きるのは目に見えている。
そして想定を上回るサブプライムローンの損失の発生と、それに伴うサブプライムローンABSのパフォーマンスの悪化、格下げ、価格下落。
そしてサブプライムローンABSが含まれるCDOのパフォーマンスの悪化、格下げ、価格下落。
完全に合成の誤謬。
これが起こることがわかっていたら、誰も、損はしていない。
いわんや、格付け会社にそれを理解するなんて、不可能。
全体の間違いを正すのは、中央銀行の役割。
市場はFEDのFF金利下げを催促する展開。
FEDは完全に、Behind the Curve。
最高格付け、満期が短いものに限って、ABCP買い切りオペをする、などのサプライズがない限り。
ずっと、後手後手のまま。
また、CDO価格の不透明性の問題だが。
流通市場がない、というのも大嘘で、今、なくなってしまっただけ。
このイベントが起こる前は。
証券化商品の最もリスクの高い部分である、エクイティ部分だって、普通に市場で取引されていた。
本来価値が分からずに、商品組成するほど、ウォール街はアホではない。
先日も書いたから繰り返さないが。
「時価」が「本来価値」から乖離しているのが、問題の本質の一つ。